第36章 命の順序
ほの花から渡された薬を雛鶴に飲ませると、宇髄は事の次第を二人に問うた。
「どう言う経緯で此処にきた?何があったんだ。」
正宗と雛鶴は顔を見合わせて頷き合うと毒のせいで体が自由に動かない雛鶴にの代わりに正宗が話し始めた。
「我々は早々に蕨姫が鬼だと気づいて注視していたのですが、安全のためになるべく二人で行動していたことで目をつけられてしまいました。」
正宗が申し訳なさそうに話すのは、宇髄の妻である雛鶴を守りきれなかったことに責任を感じているからだろう。
しかし、此処に付き添い、宇髄が来るまで守り続けたのは正宗だ。
宇髄とて感謝をすれど、咎めることなどするわけがない。
「…そうか。よく無事だったな。」
「いえ…身動きが取れなくなってしまったので、雛鶴さんが毒を飲んでくれたことで病にかかったふりをして脱出することは出来ました。…しかし…」
正宗の目線が磔にされた帯に向かい、そこをすこし見つめたのちため息を吐いた。
「別れ際に蕨姫にあの帯を渡されました。恐らく監視のためでしょう。そのため、此処にきても身動きが取れずに途方に暮れておりました。」
帯は蕨姫が雛鶴と正宗の監視だけでなく、殺害をも目的とした餞別であろう。
何かあった時には二人まとめて始末できるように。
「そうか…。分かった。正宗、ありがとな。」
「…とんでもありません…‼︎奥様を危険に晒してしまったこと謝っても謝りきれません…‼︎」
「……顔を、上げてくれ。頼む。」
正宗が謝る度に胸が痛むのは宇髄の方だった。
雛鶴も正宗も無事だった。二人が無事で心の底から嬉しいのは当然のこと。
しかし、正宗は元ほの花の護衛だ。
本来ならば一番守りたい相手はほの花の筈。
そして…自分はその相手を守り切ることができなかったのだから。
「ほの花の行方が分からなくなった。俺の方こそお前に謝らないといけねぇ。悪かった。」
「え…?ほの花様が此処に来ているのですか?!」
正宗が驚くのは当然だ。
ほの花が此処に潜入したのは彼らが出発してだいぶ後のこと。
宇髄は小刻みに頷くと目を瞑って項垂れることしか出来なかった。