第36章 命の順序
──切見世
最下級の女郎屋で客がつかなくなったり、病気になった遊女が送られる場所。
宇髄は楼主の言葉を信じて、切見世までやってくるとその建物から異様な空気を感じ取った。
「…鬼か…。」
建物の中の様子に聴き耳を立ててみると、そこから二人の呼吸音が聴こえた。
その瞬間、少しだけ安堵のため息が出た。
(…生きてる。)
それだけでもわかれば、その中にいる鬼を自分が何とかすればいいだけのこと。
クナイを手にして、扉をぶち破るとふわふわと浮いている帯が自分めがけて飛び掛かってきた。
その攻撃を避けながらも、宇髄は首を傾げた。
上弦の鬼の攻撃にしてはぬるい。
此処には"本体"はいないと言うことだ。
部屋の中を回し見るとこちらを見て固まっている二人を見つけると口角を上げた。
「遅くなったな!雛鶴!正宗!」
持っていたクナイを帯めがけて投げつけると壁に磔にされて動かなくなる。
(…やっぱこれは本体ではないんだろうな。弱すぎる。)
動かなくなった帯を確認すると正宗を締め付けていた帯も取り除いてやり、雛鶴に駆け寄った。
「雛鶴!大丈夫か?!」
「天元様…!大丈夫です…!正宗様がずっと守ってくださってて…!」
「いや…!大した役に立てませんでした。宇髄様、申し訳ありません…!」
楼主が病気になって切見世に行ったと言っていたのは本当なのか、かなり具合が悪そうな雛鶴に眉間に皺を寄せた宇髄。
しかし、そんな宇髄を見て雛鶴がふわりと微笑む。
「天元様、私は病気ではありません。わざと毒を飲んで此処に逃げてきたんです。」
「毒だと…?!解毒剤は?」
「ほの花様からもらっていたものは底をついてしまったんです。」
そう言うと正宗は薬を入れていたであろう袋をひらひらとさせて宇髄に見せた。
しかし、"ほの花からもらっていた"と言う発言に自分の懐に手を入れる。
(…そうだ、アイツ…あの時俺にも…)
懐に入れ込んでいた袋を取り出すとそこからはほの花の匂いがふわりと香った。
それに目線をすこし彷徨わせるが、紐を解いて中の解毒剤を取り出した。
「雛鶴。これを飲め。俺もほの花から預かってた。」
宇髄が差し出したそれを見ると雛鶴はホッとしたような顔で笑みを向けた。