第36章 命の順序
炭治郎の肩から肩紐がだらりと垂れている。
今の衝撃で禰󠄀豆子が入っている箱の肩紐がちぎれ、壊れそうなのだ。
恐らく次の攻撃を喰らったら壊れるだろう。
炭治郎もそれを予見している。
「…禰󠄀豆子ごめん。肩紐がちぎれた。背負って戦えない。箱から出るな。自分の命が危ない時以外は…」
禰󠄀豆子は戦える。
自分の命が危なくなれば戦って身を守ってほしい。
しかし、今から炭治郎が対峙する相手は上弦の鬼。炭治郎自身が禰󠄀豆子を助けに行けるかどうかは不明だ。
炭治郎は禰󠄀豆子にそれだけ言うと刀を構えて鬼に向かって飛び出した。
──水の呼吸 肆ノ型 打ち潮・乱
炭治郎の攻撃と同時に鬼が飛び出してきてガキーンっという音と共に打ち合いが始まった。
しかし、まずすべきはこの鬼と全力で戦うことではない。
炭治郎は空中で帯めがけて刀を振り下ろすと、一度…二度…斬りつけた。
すると、はらはらと舞い降りる帯は炭治郎が着地した後ろにぱたりと落ちた。
そう、そこは鯉夏花魁が取り込まれている帯だった。
炭治郎の前に着地した鬼はその様子をほくそ笑む。
空中での身のこなしは悪くなかったこと。そして上手く鯉夏花魁のところだけ斬ったその剣捌きもなかなかのもの。
フゥフゥ…という息こそ上がっている炭治郎だがまだ余裕はある。
「可愛いね。不細工だけど。何だか愛着が湧くな。死にかけの鼠のようだ。」
「……他の人たちはどこに居るんだ。」
「ああ、お仲間の黄頭のこと?さぁね?」
一筋縄では言う気はないらしい。
恐らくそこにほの花も善逸も。
宇髄の妻達もいると炭治郎は勘づいていた。
伊之助が来るまでに少しでも情報を聞き出したいところだったが、目の前の鬼は好戦的だ。
炭治郎を見て嘲笑うかのようなその姿に簡単に情報をもらえないのは明白。
「…他の、お店の人たちもいるんだろ?」
「煩いねぇ…死にかけの鼠は黙って死ねばいい。」
情報を仕入れようと聞いたのが気に入らなかったのか炭治郎に向けて帯を振り下ろすと再び刀を構えて応戦するしかなくなった。
(駄目だ…!ほの花のことは仲間だと思っていないのに迂闊に聞いたら怪しまれる…!)
奥歯をぎりッと噛み締めると、炭治郎は鬼に向かって地面を蹴った。