第36章 命の順序
あの男に言われた通りに北側の部屋に真っ直ぐに向かった俺は外から中を見渡してみる。
(…いない。人を狩りに出ているな。)
──蕨姫だ
あの男ははっきりとそう言った。
蕨姫と言うことは京極屋の花魁だ。
それはあの定期連絡の時にほの花が言っていた花魁のことだろう。
虐め倒して、ほの花や善逸のように行方知れずになるほどの酷い所業を繰り返してきたその女を楼主自身、疎んでいたのは間違いない。
恐らくあの男は蕨姫のことを追い出したいがためにほの花を花魁として育てようとしていたのかもしれない。
そうでなければ入ったばかりでもう客につかせられていたのは説明がつかない。
ほの花と善逸は行方知れずだが、雛鶴と正宗だけは行った場所が分かる。
それならば先にそちらに行ってみた方がいいだろう。
まだ生きていれば情報を持っているはずだ。
正宗がいるのだ。
きっと生きている。
どの道、夜明けには鬼も此処に戻るはず。
そうなれば俺の手でカタをつけるまで。
絶対にこの目で見るまでお前が死んだなんて認めない。ほの花。
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ゴクっと生唾を飲んだ炭治郎はその光景に武者震いのような震えが起きた。
「鬼狩りの子?来たのね、そう。」
何重もの帯が連なり、ふわふわと浮いているのは血鬼術だろう。
真っ直ぐに炭治郎を射抜くその瞳は冷たく、瞳の中には数字が書かれている。
「何人いるの?一人はあの黄色い頭の餓鬼でしょう?柱は来てる?もうすぐくる?アンタは柱じゃないわね、弱そうだもの。」
どうやらほの花のことは鬼殺隊だとは思っていなさそうだ。
炭治郎は余計なことを言うまいと浅い呼吸を繰り返しながら視線を横にずらす。
そこには浮いている帯で締め上げられている鯉夏がいた。
苦しそうな表情を浮かべているところを見るに何とか間に合ったのを意味する。
「柱じゃない奴はいらないのよ。わかる?私は汚い年寄りと不細工を食べないし。」
その鬼は恐ろしいほどに美しく、怪しく口角を上げると炭治郎に笑みを浮かべた。