第36章 命の順序
ほの花は体を締め付けられたまま、天井を見上げながら考えていた。
(…どうにか宇髄さんに伝えなければ…)
そう。
外にいる宇髄との連絡手段は断たれている。
しかし、此処には宇髄の妻二人がいる。ほの花の元護衛二人もいる。
善逸もいる。
恐らく"足抜け"したと思われていた遊郭の人たちも大勢いる。
そして…幸いなことに今、堕姫はいない。
それは"今が助けを呼びに行く好機"ということだ。
だが、ことはそれほど簡単ではない。
確かに帯の中に閉じ込められている人よりはほの花は実体があるのだから可能性は高くなるだろう。
ただし、ほの花の体は締め付けられたままで少しでも動けば骨が軋むほどの痛みを感じて更に締め上げられるのだ。
それでも状況的に"今が好機"ということは変わらない。
体が動かせずともほの花が陰陽師だからこそ出来ることがある。
女であるほの花に備わっている陰陽道の能力値は低く攻撃力はそこまで期待できないが、彼らなら宇髄のところまで行けると確信していた。
──陰陽道奥義 式神 白虎
ほの花がそう声を上げると目の前に現れたのは大きな白い虎
古の四神の内の一人だ
此処がどこかは分からないが、薄暗く冷たい空間ということは地下の可能性が高い。
ほの花の耳は宇髄や善逸ほど良くはないが、人の気配が上から感じるのだ。
(…上だ…、兎に角この外に出れば…宇髄さんがいる筈だ。)
今が何時なのか。
此処がどこなのか。
分からないことはたくさんあるが、外を目指すために向かうべきは上だということだけは本能的に分かっていたほの花は白虎に向かって命令を下す。
「白虎…、宇髄さんに此処のことを知らせて。きっと助けに来てくれる。奥様達がいると、伝えて。」
「御意」
式神は陰陽師の意識下にいるため、ほの花の記憶はそのまま連動する。思い浮かべる宇髄の姿形を式神が感じ取れば、共有することが可能だ。
白虎が首を垂れると壁を伝って天井に向かって静かに消えた。