第36章 命の順序
(まずい…!陽がほとんど落ちかけている!早く伊之助のところに行かないと…!)
炭治郎は屋根伝いに"萩本屋"へ向かっていた。
伊之助と合流するためだ。
ただでさえ"早く来い"と言っていた伊之助だ。
少しの遅れもめくじらを立てて怒鳴り散らすだろう。
しかし、その時だった。
風に乗って匂いが漂ってきたのは。
(…鬼の匂いだ。)
その場に座り、辺りに注意を向けるがその匂いはどうやら自分が先ほどまでいたところから匂ってくる気がした。
(…鬼だ‼︎間違いない‼︎近くにいる‼︎)
炭治郎は元来た道を慌てて戻っていった。
鬼の匂いの出どころが先ほど激励をしてくれた鯉夏のいる方向からだったからだ。
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──その頃 萩本屋
「遅いぜ‼︎もう陽が暮れてるのに来やしねぇぜ!惣一郎の野郎‼︎」
伊之助が痺れを切らしていた。
太陽が沈んで暫く経っているというのに一向に現れない炭治郎にヤキモキしながら待つというのは性に合わない。
「よし…俺は動き出すぞ、猪突猛進をこの胸に‼︎」
すると、その場に座り込み足に力を入れると「だーーー!」という掛け声と共にそのまま床を蹴り上げて天井に頭をめり込ませた。
顔だけ覗かせた天井裏には二匹のネズミだ。
その姿は普通のネズミとは違い、筋骨隆々でどこぞの柱のような逞しい体つきをしている。
宇髄の使いの"忍獣"ムキムキねずみだ。
特別な訓練を受けており、極めて知能が高い。
「ねずみ共!!刀だ!!」
そして伊之助がそう言えば、たった一匹で重い刀を一本持ってくるだけの筋力があるのだ。
持ってきてくれた刀を受け取ると、伊之助は久しぶりに着物を脱ぎ捨てていつもの姿に戻り、猪の被り物をつけた。
開放感に思わず顔がにやけるのを止められない。
大きく息を吸い込むと刀を手にして目の前を見据えた。
「行くぜ‼︎鬼退治‼︎猪突猛進!!」
しかし、突然美少女だと思っていた猪子が男だった事実を見てしまった女中が一人後ろで慄いているが、伊之助はどこ吹く風。
今からの頭の中には一つの目的しかない。
"鬼を滅すること"
それだけだ。