第36章 命の順序
定期的に連絡を取り合うため、夜には鎹鴉を飛ばして手紙を寄越してくれるほの花。
必ずくれていたそれが昨夜、突然途絶えた。
おかしいと思って京極屋まで見に行ったが、善逸とも連絡が取れなくなっていた。
──ドクンドクン
心臓が煩い。
大丈夫だ。
ほの花は生きている。
生きている筈だ。
連絡が取れないまま夜が明けてしまったが、震える体を抑えて何とか連絡を待った。
きっと…二人とも接客をしていて忙しかったのだろう。
ほの花のことだ。ひょっとして睡り薬を飲ませるとか言って間違って自分も一緒に飲んでしまったのかもしれない。
たまに大ボケをかましてくるほの花だ。
それくらいのことは大いにあり得る。
しかし、いくら待ってもほの花と善逸と連絡が取れることはなかった。
──ドクンドクン
心臓が煩い。
何故、こんなにも煩いのだ。
苦しくて苦しくて息が詰まりそうだ。
「…ほの花…!死んだら…ぶっ殺すからな…‼︎」
ズキン
そう言葉を発した時、俺の頭が再び痛みを発した。一瞬のことで持続はしなかったが、自分の発言が何か記憶の引き金になったのだろうか。
あの呉服屋に行った後の頭痛と同じ痛みだった。
怒りなのか、不安なのか分からないが、苛々が止まらない。ほの花と連絡が取れないことで息をすることすらままならないと感じるほど。
頭痛が治まるとふらふらと定期連絡のために待っているだろう炭治郎と伊之助の元に向かった。
「お前たちには悪いことをしたと思っている。」
到着した二人に矢継ぎ早に"ほの花と善逸が来ない"ことを伝えると当然"どういうことか"と聞かれるが、俺だって分からない。
何故此処にほの花と善逸が来ないのか。
何故連絡が途絶えたのか。
全く理解が追いつかない。
情報が少なすぎて想像すらできないのだ。
俺はまばらな人が行き交う花街を見ながら話し始める。
「俺は嫁を助けたいがためにいくつもの判断を間違えた。ほの花と善逸は行方知れずだ。昨夜から連絡が途絶えている。」
何故、あの時無理矢理にでも連れて帰らなかったのか。
最後ににこやかに笑って「桜の木を見に行こう」と言ったほの花の顔が頭から離れない。