第36章 命の順序
──京極屋
「旦那さん!旦那さん…!!」
「今度は何だ!?また善子が問題起こしたのか⁈」
「い、いえ…‼︎それが…‼︎善子もなんですが…ほの花まで居なくなってしまって…‼︎」
「…?!何だと…‼︎ほの花まで…⁈」
蕨姫に捕まってしまったほの花と善逸が居なくなったことで京極屋は更なる追い討ちをかけられていた。
蕨姫を怒らせただけでなく、善逸と言う怪我人を出し、更にほの花まで行方知れずと来た。
しかも、ほの花と言えば秘密裏に京極屋の稼ぎ頭にしようとした人物。
蕨姫との接点を取らせないように必死になってきたと言うのに。
善子と蕨姫のゴタゴタの際もほの花は部屋から出されずにいたのは誰もが知っていたことだった。
それなのに善子と共に姿を消した。
「まさか…ほの花と蕨姫を会わせたのか⁈」
「い、いえ‼︎そんな筈はありません…‼︎ほの花は二階には行っていませんし、一階の部屋で善子の様子を診てもらっていただけなんです…!」
そう、ほの花は外には出ていない。
そこから血鬼術によって連れ出されたのだから。
だが、そんなことを知る由もない京極屋の面々は狐に摘まれたような感覚に陥るしかない。
「な、何故…ほの花まで…!蕨姫に見つかったら…!」
「さ、探させますか?」
楼主は女中の言葉に考えた。
蕨姫に見つかる前に見つけてキツく仕置きをする手も勿論ある。
しかし、万が一蕨姫に見つかっていたならば、自分達が彼女に咎められることも考えられる。
二日前、楼主の妻が屋根から落ちて死んだのは記憶に新しい。
蕨姫の正体に気づいてはいないものの、楼主は彼女が関わっていることに薄っすらと疑いを持っていた。
ほの花を稼ぎ頭にして蕨姫を追い出そうとしていたことをバレるわけにはいかない。
せっかく見つけた上玉の女を手放すのは惜しいが、楼主は諦めるしかなかった。
「やめろ‼︎もういい、探すな!"足抜け"だ!俺は知らん!どこかへ逃げたのだろう。放っておけ‼︎」
足抜けと言うことにしておけば蕨姫の怒りは抑えられるかもしれない。
兎に角知らないふりをするのが得策と考えた楼主は声を荒げた。