第36章 命の順序
私は頭を必死に回転させていた。
今ままで必死に隠してきたことを知られてもいいのか?
目の前にいるのは里を襲った張本人。
この鬼が里を襲って、家族を殺した。
父は鬼にされ…、自分がとどめを刺してしまった。そして母も看取った。
何もかもを奪われた。
奪っていった張本人が目の前にいる。
でも、自分は拘束されていて武器も屋根裏に置いてきたまま。
「何とか言いなさいよ。苛つく女だね‼︎」
顔を掴んでいた手を離されたかと思うとバッチーーンと言う音を立てて張り手をされた。
首がもげるのではないかと思うほどの強烈な其れに一瞬意識が飛びかけた。
「アンタは誰だって聞いてんのが分からないのかい?!」
頬がジンジンと痛む。
瑠璃さんの比じゃないほどの張り手は頭がぐわんぐわんと揺れるほど。
拘束されていて受け身も何も取れない中での攻撃は骨身に染みる。
「……あなたが…蕨姫が殺したの…?私の家族を…。」
「私の名前は堕姫よ。蕨姫なんかじゃない。いいから答えなさいよ。今度は首ごと叩っ斬るよ。」
蕨姫と言うのは花魁の時の名前。
鬼の名前は堕姫というのか。
私は揺れる視界に項垂れながらも考えた。
どちらにせよ、もう陰陽師の里の者だと言うことはバレている。
そしてこの髪も異国の顔立ちも言い逃れできない。
そして隠すことなんかないではないか。
自信を持って言えることだ。
私は…、私は…‼︎
「そうよ、私は神楽家の長女。よくも、里のみんなと家族を殺してくれたわね。こんなところで会えるなんて思いもしなかったわ。」
「とうとう白状したわね。女狐が。美しい物しか食べたくないけど、アンタは食べられないね。アンタを食べるとこっちが痛手を負うからね。」
「……知ってたの。」
「知ってるさ。だから滅ぼした。それだけのことだろ。神楽家の女がいたら気をつけろと言われていたからね。」
すると堕姫は私から手を引いて距離を取って、高らかに笑い始めた。
「残念だわ。アンタみたいな美しい女食べられなくて。でも…あとで痛ぶりながら殺してあげる。その前に人を喰いに行ってくるから大人しくしてるのよ。」
そう言うと突然身を翻して、その場から消えてしまった堕姫。
ほの花は締め付けられながらもその姿を探すことしかできなかった。