第36章 命の順序
ゾワゾワ…と体中に駆け巡る悪寒に口を真一文字に噤むほの花。
"聞きたいことがある"
そう言った蕨姫が音もなく、目の前まで歩いてくるとほの花の顔をガッと掴んだ。
「っ!!」
痛みで顔を歪ませるが、蕨姫は首を傾けながらほの花を見下ろして口角を上げている。
「…アンタの顔、見覚えがある。あの山奥の里にいた陰陽師とか言う集団の生き残りかい?一体何処に隠れていた?皆殺しにした筈なんだけどねぇ。」
口調はゆっくりだが、それはほの花に死期を悟らせるほどの恐怖を感じさせたが、顔を掴まれながらも耳に入ってきた事実に目を見開いた。
「……わ、蕨姫が…!私の里を…?」
「聞かれたことだけ答えなさいよ。何処に隠れていたんだい?」
ギリギリと強く掴まれればほの花の白い肌に鬼らしい尖った爪が食い込み、痛みで顔を歪ませる。
「…っ、か、隠れて、たんじゃない!たまたま、いなかった…!」
「そう。なら何故此処にいるんだい?」
誘導尋問だろうか。
自分が潜入調査をしていたことだけは知られてはいけないと咄嗟にほの花は気づいた。
心拍数を抑えて、極力冷静に彼女を見つめた。
「…、そんなの…!里が急になくなって…、行き場がなくて売られたからよ…!」
「あんた…あの陰陽師一族…神楽家の娘なんだろ?」
咄嗟に吐いた嘘を伝えてみても蕨姫から返ってきた言葉はほの花が絶対に鬼舞辻無惨に知られてはいけないこと。
そのために今までほの花の家族、陰陽師の里の全ての人々が一丸となって隠してきた事実なのだからだ。
「アンタの顔、神楽家の長の妻によく似てる。あの女もアンタと同じ栗色の髪をしていた。此処いらでそんな髪色はなかなか見ないからね。」
ほの花の髪は母譲り。
異国の生まれの母は綺麗な栗色の髪をしていて、目も青かった。目は父親譲りの黒色だったが、異国の顔立ちは滅多に見かけない。
要するにほの花の容姿はこの日本ではとても珍しい。
そして目立つ。
母親の顔がバレているのに嘘を突き通すことができるか?
散々宇髄に嘘をつき続けてきたと言うのに肝心な時にまともな嘘が思い浮かばないことにほの花は悔しくて仕方がなかった。