第36章 命の順序
「…ん…?」
ほの花は薄暗い場所で目を覚ました。
ゆっくり目を開ければ、そこにはあの帯が無数に連なって張り巡らされていた。
そこには人が映っている。
まるで写真のように収まってはいるが、実体はない。それを見るだけで血鬼術だと理解できるが自分には帯が巻き付けられて身動き取れないようになっているだけで皆のように帯に封印されているような様ではない。
(…どういうこと…?何が起こってるの?)
恐る恐る天井を見上げてみるが、どう頑張っても飛び上がって助けを呼びにいくことは叶わない。
(…宇髄さんならいけるかもしれないけど、私には無理だ。)
しかも、キツく締め付けられている帯はそれだけでほの花の肋骨をギシギシと軋ませる。
動けば締め付けられるようになっているのだろう。
痛みに顔を歪ませたほの花はとりあえずどうすることもできないのだから、ふぅ…とため息を吐いた。
どうにか…宇髄さんに連絡は取れないだろうか。
今は昼なの?夜なの?
全くわからない。
どれくらい気を失っていたのだろうか。
時間の間隔も途絶えている。
帯に張り巡らされたその空間も異様な空気を醸し出していて、そこが異常な場所なのだと簡単に察知できる。
状況判断をするためにゆっくりと周りを見渡して見ると見知った顔を見つけて思わず声が出てしまった。
「…っ、善逸!!…、まきをさん…!隆元!須磨さん!大進…‼︎」
そう言うことか…。
捕らえた人たちをここに保管しているのだ。
捕食するために。
この血鬼術は鮮度が落ちないように生きたまま帯の中に収納できるのだろう。
しかしながら、見渡してみると其処にいるのは若者ばかり。
炭治郎が言っていた"足抜け"したと言われた人たちも此処にいる筈だ。
「目が覚めたのかい?あんたには聞きたいことがあるからねぇ。」
急に目の前に現れたその鬼は真っ白な肌に恐ろしいほどに美しい女の鬼だった。
これが…蕨姫
音もなく
気配もなく
そこにあるのは恐ろしいほどビリビリと張り詰めた空気
生まれて初めて感じた"死"の感覚。
自分の実力では到底叶わない
絶望感だけがほの花を襲っていた。