第36章 命の順序
遠い昔、鬼と対峙していたのは鬼殺隊ではなく、陰陽師の一族だった。
鬼舞辻無惨を鬼にした医師。
それこそが神楽家の血縁の者。
医師が殺されたことで神楽家は慌てて都を離れた。
自らの血縁者が鬼を作り出してしまったその責任を感じた神楽家は陰陽道を使い、鬼を滅するために人知れず暗躍してきた。
それと同時に鬼舞辻無惨を殺すための薬の開発も急がれた。
神楽家は代々薬師の妻を娶り、何百年とかけて鬼舞辻を追い詰めるための薬の開発を続けてきたが、人間を喰らうことで益々と力を増大し続けていく鬼舞辻に段々と追い詰められていく。
陰陽道の力は生まれ持ってその力の限度が決まっていた。
力をつけていく鬼舞辻と違い、当然横ばいの戦闘力の神楽家は年を追うごとに"鬼門封じ"が効かなくなってきていることに気づいていた。
鬼舞辻から作り出される鬼を倒しながら、陰陽師の里を守ってきたが、ある日娘が十二鬼月に捕らえられてしまう。
元々女児には陰陽道の力はほぼ与えられない。
不思議なことに神楽家の陰陽道の力は男児に偏って受け継がれていたのだ。
しかしながら神楽家の女児には不思議な力を持って生まれてくる。
それが"治癒能力"だった。
奮闘虚しく、捕らえられた女児はその鬼に無惨にも食べられてしまった。
しかし、その血を口にした瞬間、その鬼の首が吹っ飛び、血飛沫をあげたのだ。
辺りを真っ赤に染め上げるその光景と崩壊していく体を見て、神楽家は気付いたのだった。
女児に希望の光があることに。
それからと言うもの、鬼舞辻は神楽家の女児を躍起になって探した。
自分の作り出した鬼の記憶は自分にも刷り込まれるため、予想だにしていなかったことに怒りが止まらなかったのだ。
それでも鬼舞辻はどこか安心してもいた。
自分の力は既に陰陽師家をはるかに凌駕しており、厄介なのはどちらかと言えば最近煩い鬼殺隊だった。
理由は簡単だ。
神楽家に女児が生まれる可能性は100年単位でたった一人生まれるかどうかの割合だったから。