第36章 命の順序
「あんたの顔、何処かで見たことあるねぇ。」
「え…?」
それは突然のこと。
その鬼の血鬼術である帯に目が現れたかと思うと私をじぃっと上から下、前、後ろ…と見られるが、隙も見せてくれないため棒立ちしていることしかできずにいる。
しかも、私はこんな鬼と対峙したことはない。
会っていたとしたらおそらく殺されていて、今この世にいないだろう。
「…違う、似てるだけか。何処かで見た顔だったと思えばあのクソ田舎の里にいた女か。」
それを聞いた瞬間、私は目を見開いた。
"クソ田舎の里にいた女"
そして私と似ている女、といえば…
『ほの花は母親に似てるな』
家族写真を見た宇髄さんが私に言った言葉だ。
となれば、自分も似ている女なんて考えなくても誰かわかる。
「…クソ田舎…の、里…?」
「まぁ、いいわ。あんたはいずれ私に喰われる運命なんだ。美しく生まれてよかったわね。苦しまないように美しいまま…殺してあげる」
そんな脅しは頭に入ってこない。
耳から入ってきても右から左だ。
ふぅー、ふぅー…と荒い息が口から漏れ出る。震える手で自分の胸元にある首飾りに触れる。
まさか
まさかとは思うけど…
「…ん?その首飾りも見たことがあるねぇ。ああ、ひょっとして…あんたあの女の娘だね?通りで似ていると思ったよ。」
「……さぁ?知らないわ?」
震える手が止まらない。
知りたくないけど、知りたい。
知りたいけど、知りたくない。
「そういや一年ほど前に目障りだと言われて陰陽師一族を始末したねぇ。その首飾りは男が持ってた。あんたの父親かい?里にいた連中も皆殺しにしてやったわ。」
その瞬間、太腿から小刀を出して無謀にもその帯に斬りかかった。
もう今更いいと思ってた。
亡くなった人は二度と生き返らない。
私には宇髄さんがいたからもう過去は振り返らない。そう思ってた。
でも、蓋を開けてみれば今、私は一人で
目の前にいる帯が家族を殺し、里の皆の命を奪った張本人だと言う。
血が沸騰するように滾っているのが分かるが、自分の攻撃など大したことはないのだろう。
小刀ごと体に帯が巻き付いてきて、あっという間に拘束されてしまった。
ギリギリと締め付けられて薄れゆく意識の中、頭に浮かんだのはやっぱり宇髄さんだった。