第36章 命の順序
鬼の正体に気付いたとしても此処で自分が鬼殺隊だとバレてはいけない。
そして仲間も一緒に来ていることも悟られてはいけない。
善逸は必死に頭を回転させた。
女の子たちが善逸に助け舟を出したとて、蕨姫からすれば関係ないこと。
余計に怒りを助長させたと言っても良い。
「は?だったら何なの?」
たったそれだけの言葉で腰を抜かす女の子達に善逸は震える体に叱咤激励をして奮起した。
「か、勝手に入ってすみません!部屋がめちゃめちゃだったし、あの子が泣いてたので…」
「不細工だね、お前…気色悪い。死んだ方がいいんじゃない?」
せっかく取り繕うために謝罪をした善逸だったが、その鬼はどうやら見た目に関して執着があるのか善逸を見て怪訝そうな顔をしている。
「何だい、その頭の色は。目立ちたいのかい。」
「……」
突然の罵詈雑言に太刀打ちすることもできずに善逸はそれを受け止めることしかできない。
だが、此処で事を荒立てることは得策ではない。
「部屋は確かにめちゃくちゃなままだね。片付けるように言ってたんだけど。」
ゆらり、とゆっくり体の向きを変えたその鬼は泣いていた女の子の耳をぎゅむっと引っ張り上げた。
「ギャア!」
「五月蝿い‼︎ギャアじゃないよ!部屋を片付けない‼︎」
「ごめんなさい、ごめんなさい!すぐやります、許してください…‼︎」
小さな女の子相手にも容赦ないその姿。
泣いていた時にも既に怪我を負っていたその子。
これを見てしまえば"蕨姫"というこの鬼の花魁がやったのは一目瞭然。
本来ならば善逸は大人しくして、此処を切り抜けるつもりだった。
そうしないと自分達鬼殺隊が潜入したことがバレてしまう。
「…何?」
しかし、突然ギロっと蕨姫が善逸を睨みつけた。
何もしないつもりだった善逸だが、こんな仕打ちを見せられて放っておけるわけもなく、ガシッと手をつかんだからだ。
「手…放してください」
震える手を何とかそのままに善逸は蕨姫と対峙した。
自分だけでどうにかなる相手じゃないと善逸とて分かっている。
それでも此処で引くことはできなかったのだ。