第36章 命の順序
──京極屋
(…なんか、俺我を見失ってた…)
此処に入ってからというもの持て囃されるのはほの花ばかり。
自分は売られる時も宇髄さんに「こんなのタダでもいいんで」と言われる始末。
あまりに腹が立ったので三味線と琴の腕を磨いてしまったが、そんなことしても仕方ない。
ほの花と宇髄さんのことに口出してしまったことを若干後悔していたが、思ったよりもスッキリした顔をしているほの花に救われた。
彼女もまた自分の道をしっかりと決めたのだろう。
それが分かればあとはもう任務を遂行するのみだ。
今は宇髄さんの奥さんだという雛鶴さんとほの花の元護衛という正宗さんという人を探す。
それに尽きる。
しかし、耳が良い自分がいくら聞く耳を立てても一向にその"雛鶴""正宗''の名前を聞くことはない。
どうやら二日前に楼主の奥さんが亡くなったらしくて皆暗くて口も重い。
そして、ほの花が言ってた"蕨姫"の情報もなかなか手に入らない。
皆口を噤んでいるようだ。
(ほの花は大丈夫かな…)
一緒に売られても別行動を強いられているのはほの花が此処の人たちに彷徨くのを止められているからだ。
皆、蕨姫とほの花の接点を持たせないことに必死だ。
それほどまでにその蕨姫とやらは"厄介者"なのだろうか。
ほの花が動けない分、自分が動かなければ…と情報を仕入れるため歩きながら耳を澄ましていると、「ひっく、ひっく」と言う泣き声が聴こえてきた。
自他共に認めるほど女の子に関して異常な執着を持っている善逸がその泣き声に反応しないわけがなく、腑抜けになりかけていた彼を覚醒させた。
「女の子が泣いてる。一大事だ。」
耳に入ってくる泣き声を頼りに歩みを進めると一つの部屋にたどり着いた善逸。
しかし、その部屋を覗いた瞬間、驚愕の表情を浮かべる。
そこは見るも無惨な荒れっぷり。
物は散乱し、障子は破れ、衝立も倒れている。
その中で一人啜り泣く少女に善逸は近づくと更なる衝撃に思わず大きな声が出てしまった。
少女の髪は乱れ、顔は赤く腫れ上がり、口から血が垂れていたから。