第36章 命の順序
「わっちも欲しい!」
「花魁!花魁!」
お菓子をもらった炭治郎を羨ましがった女の子達を戒めている鯉夏花魁に彼は思いきって須磨のことを聞いてみることにした。
「あの、須磨花魁は何で足抜けしたんですか?」
「…どうしてそんなことを聞くんだい?」
鯉夏の視線が先ほどまでの柔和なものから少しだけ鋭いものに変わったことで、炭治郎は動揺した。
(…うまく聞かないと…警戒されてる…!)
せっかく『須磨』の名前が出てきたのだ。
此処でうまく切り抜けなければ情報はまた途絶えてしまう。
炭治郎は必死に考えた。
いい言い訳を。
しかし、素直な性格な炭治郎は嘘をつくのが大の苦手。
冷や汗をダラダラ流しながら、目線をあからさまに逸らしながら苦し紛れに出た言葉に鯉夏達は絶句することになる。
「す、須磨花魁は、わ、私の、私の…あ、姉なんです…」
正直者故、嘘をつく時変な顔になってしまう炭治郎だが、鯉夏は一つ息を吐くと頷く。
「姉さんに続いてあなたも売られてきたの?」
「そうです。姉とはずっと手紙でやりとりしていましたが、足抜けするような人ではないはずで…」
本当は手紙のやりとりをしていたのは炭治郎ではなく、宇髄。
嘘を重ねていけばいくほど苦しい炭治郎だが、この場合致し方ない。
「大進って言う使用人もあなたの家にいた人なの?」
「そ、そう、です!」
「…一緒にいなくなったの。だから足抜けと言われてる。あの二人が恋仲だったんじゃないかって。」
大進とはほの花の元護衛。
宇髄の嫁である須磨と恋仲である可能性は限りなく低いだろうが、本当のところは分からない。
そもそもほの花と宇髄が恋仲だった頃、二人が愛を育んでいたかどうかなど今となっては誰も分からないからだ。
だが、鯉夏の話によると見つかった日記に足抜けをすると書いてあったらしい。
この遊郭という場所が鬼にとって都合のいい場所なのだ。
人がいなくなっても足抜けだと思われて終わりなのだから。
(…日記はおそらく偽造だ。必ず助け出すから無事でいてください。須磨さん、大進さん…!)
遊郭とは
そういう場所だ