第35章 約束
溢れ出した涙が垂直に流れ、耳の中に入り込んだ。
「…だからね、もうこれ以上何もせずに時の流れに身を任せた方がいい。」
「うん…」
「してしまったことは変えられないし、そこは仕方ないよ。でもさ、もう余計なことは何もしなくていい。ほの花はそのまま目的を完遂して。」
布団の横に座ったまま私を見下ろしている善逸を見上げれば優しい顔をしている。
その顔に益々涙が込み上げた。
「…此処まで来たらもうそれを完遂させなければほの花も気が済まないだろうし…。でも…もう宇髄さんに対して何かする必要はないと思う」
善逸はこう見えて結構常識人だって知ってる。
だから彼の言葉はきっと正論なんだ。
第三者から見て…の意見。
それはとても重い。
小刻みに頷くことしかできないけど、彼の言葉に何とか反応をする。
「…善逸、私ね。これが終わったら宇髄さんに本当のこと話すよ…。」
「ここの鬼を倒したら…?」
「…うん。」
本当は鬼舞辻無惨を倒したら…と思っていた。
でも、きっとそれまでもたない。
善逸の話が本当ならば、このままの状態が続くのはお互いのためにならない。
いや、宇髄さんに本当に本当に申し訳ない。
ちゃんと話してそれから最後の審判を受けよう。
"お前なんてもういらない"だろうとそれも受け入れる。
この茶番のような一連の行動を清算する。
だからとりあえず此処で生き延びなければならない。
実際のところ、私は実力をちゃんと量れていなかったのだ。自分の実力は知り得ている。
そうではない。
鬼舞辻無惨という男のことを、だ。
此処に巣食っているのが十二鬼月だとして…此処まで尻尾を出さない。
そして雛鶴さん達、正宗達との連絡が途絶えた。
それがどういうことか?
それほどまでに此処にいる鬼が強大だということ。
宇髄さんもあれだけ慎重に行動しているのはそういうことだ。
鬼舞辻無惨まで辿り着くことができるかわからない。
私の血は珠世さんに託した。
そこまで自分が辿り着けなくとも神楽家の切り札はもう既に着々と準備を進めている。
私自身は正直、用無しだ。
だからと言って無駄死になど御免だし、私は生きて罪を償いたい。
その前に此処の鬼を倒すことに全力を尽くすのみだ。