第35章 約束
「…え、あ…た、たまたまじゃない、かな。」
「どうだろう…。でも、宇髄さんから発せられる音はほの花に対してだけ違うよ。俺は…多分、少しずつ思い出してる気がしてならないよ」
もしそれが本当ならばどうしたらいいのだろうか。
薬を追加する?
いや、だめだ。任務中に忘れ薬を飲ませたら任務のことまで忘れてしまう。
やはり継子を解消する?
…万が一、思い出しかけているならば今更解消したところで何の意味があるのだろうか。
頭の中で思い浮かぶことの全てが無意味なことに思えて仕方ない。
いや、実際そうだ。
「…本当に、さ…私、何やってんだろ…ね。馬鹿みたい。」
「…ほの花…。」
「みんなを巻き込んでさ…っ!結局、宇髄さんのこともちゃんと忘させてあげられなくて…‼︎」
馬鹿みたい
馬鹿だよ
大馬鹿者なんだ
そんなこと分かりきっていた
瑠璃さんにあんなにどつかれたのに
愼寿郎さんにあんなに罵声を浴びせられたのに
結局、この結果を生んだことが大馬鹿者の証拠。
善逸がこちらを向いているのが分かるけど、悔しくて涙が溢れた。
「…完全に思い出したわけじゃない、と思うよ。でも…さ、忘させる必要あるのかな。」
「え…?」
「ほの花の中で宇髄さんってどんな人…?」
どんな人?
どんな人って…
「大切な…人?」
「そうでしょ?宇髄さんだってそうなんだよ。ほの花を大切にしてた…。ううん。してると思う。」
善逸の声が横ではなく、上から聴こえてくる。
近くにいるんだ。
そしてその言葉は私にズシリと重りのようにのしかかる。
「…ほの花が、宇髄さんに同じことされたら…どう思う?」
「…っ、それ、は…!」
「俺なら…、物凄く屈辱感を覚えるよ。」
背筋が凍りついて、体が震えた。
もう分かってる。
鬼殺隊のためと分かっていても結局のところ、この一連の行動は私の身勝手に過ぎない。
瑠璃さんに言われて目が覚めてたから分かってる。それでもやめられなかったのは周りを巻き込み過ぎてしまったから。
自分のしたことの責任を取りたかったから。
「…好きな人に記憶を消されるなんて、頼ってもらえなかったなんて…情けないとしか思えないよ…」
……ああ、もう…
私は、本当に男心が分かってないよ。