第35章 約束
"お前も嫁になればいいだろ"なんて言ってほしくなかった。
私は継子。
嫁にはなれない。
恋人にもなれない。
私たちはもう終わったの。
「師匠、私は薬師です。必ずや師匠のお悩み解決して見せます。安易に女子に嫁になれなんて言うものではありませんよ。」
「はぁ?!安易に言うわけねぇだろ?」
「あなたの奥様はあの三人だけです。それ以上でもそれ以下でもありません。私は継子です。先日はすみませんでした。命令とは言え安易なことをしたせいで責任を感じていらっしゃるならばどうぞ忘れて下さい。」
あの件はもう終わったこと。
二度と私はあなたとはシないと決めている。
「先ほどの発言も撤回させてください。口淫なども奥様達を裏切る行為でした。申し訳ありません。二度と申しません。」
私は継子。
嫁にはなれない。
恋人にもなれない。
「…命令に逆らうのかよ」
「でしたらこの場で師弟関係を解消してくださって結構です。」
もう戻れなくてもいい。
嫁になれば優しいあなたは私を守ろうとするでしょう?
命の順序に入ってしまうでしょう?
それは何の意味もないこと。
絶対に駄目なの。
「…はぁ…、そんなに、嫌なのかよ。俺のことが」
悲しそうにそう呟く宇髄さんに胸が痛んだ。
そうじゃない。
そうじゃないのに…。
「嫌と言うか…前にも申し上げた通り私には…」
「アイツが忘れられないってか。はいはい。わかりました。…もう言わねぇよ。」
この話になるといつも喧嘩腰になってしまう私たち。
きっとこの時点でもうこの先はない。
私と宇髄さんの未来はもう終えたの。
悲しいけどそれは分かっていたこと。
もう涙も出ない。
「…師匠、先ほど言っていた遊女としてのまぐわいについてですが…」
「…何だよ。」
「私は薬師です。」
「…?だから何だ。」
薬師だからいくらでも対処の仕様がある。
宇髄さんが苦しんでるのが分かる。自分の中の知らない記憶によって私に縛られているんだ。
どうしたら解放できる?
どうしたら貴方を助けてあげられる?
今の私には分からない。
でも、一つだけ言えることがある。
貴方が望めば私はいつでも此処からいなくなる。
今此処にいるのは過去の貴方との約束だから。
嫌ならばいつでも去る準備はできている。