第35章 約束
反応しなかった?
勃起しなかった?
勃たなかった?
え?宇髄さんが?
恋仲の時、道端でも勃起したとか言って物凄い元気な下半身をお待ちなあの宇髄さんが?!え、病気?!
いや、病気に違いない。
私…薬師なのに!何で言ってくれなかったんだろうか。
「…し、師匠…体調が優れなかったのであればすぐに言ってくれたら…!」
「ちげぇわ!別に悪くねぇわ!」
「あ、あの…!心配いりません!(小声)ぼ、ぼ、勃起不全のお薬を調合しましょうか…?恥ずかしくありません!大丈夫です‼︎一緒に治しましょう‼︎」
それは確かに奥様達にも言いにくいことだろう。
任務の真っ最中にそんなことが起これば宇髄さんとて相当な衝撃だったことだろう。
「だからちげぇっつーの‼︎勃起不全じゃねぇわ‼︎やめろ‼︎ボケてんのか⁈テメェ‼︎…いや、違うな、お前は違うな…。」
「え…?あの、良いんですよ?私は医療者なので恥ずかしがらなくとも…」
「あーもーーほんっとにお前は……だったら何でお前のこと抱けたんだよ⁈」
「………え?」
そう言われてハッとした。
そうだ。私はつい最近、宇髄さんに抱かれた。
誰にも言えないけど、そういうことがあったのは間違いない。
でも…その時、宇髄さんの下半身は……
「そう言えば…とてもお元気でいらっしゃいましたね…。」
「その言い方やめろ。…こっちはずっと困ってたんだぞ…‼︎お前のせいで…‼︎どうしてくれんだよ…。お前しか勃たねぇとか…、意味わかんねぇよ…。」
──お前しか勃たねぇ
それは恋仲の時に彼が言っていたこと。
でも、正直のところ、そんなことはないと思っていた。人間の体の構造は知り尽くしているし、男性器が興奮を覚えると勃起するのは自然なことなのだ。
彼は私を喜ばせるためにそんな風に言ってくれていたのだと思っていたけど…、隣で頭を抱えて項垂れている宇髄さんを見るとそれが事実なのだとわかる。
しかし、私は忘れていた。
不思議なことではないじゃないか。
私だって鬼に抱かれそうになった時、不感症だと言われて濡れなかったではないか。
そこに…
"想い"が無ければ反応しない。
だとしたら…
彼の体に残った記憶が私にしか反応しないようにしてしまったのか?
こんなこと思ったら駄目なのに、私は嬉しくてたまらなかった。