第35章 約束
もう、いい。
恥を忍んでもコイツに誤解されたままだと釈だし、それを伝えればほの花も思いとどまるならば背に腹はかえられねぇ。
「…抱いてねぇんだよ。遊女を。」
「…え…?」
どうせ勘の悪いほの花のことだ。はっきり言わないと分かるわけがない。
「…ったくよぉ…言いたくねぇことだったのによ。本当にお前は…。」
組み敷いていたほの花の体から離れて再びその隣に座って目線を合わさないように言葉を考える。
ゆっくりと体を起こしてこちらに視線を向けているほの花を見ずに、ポツリポツリと話し始めた。
「…絶対ェ笑うなよ…。」
「…へ、は、…はい!笑いません。」
「誰にも…、嫁達にも言うなよ。分かったか?」
「わ、わかりました!」
返事だけはいつも良いほの花。
だけど思い通りにならない手のかかる女。
それでも…どうしようもないくらい心配でたまらない女。
頭を掻きむしりながら下を向いたまま、俺は話し出した。
「…反応しなかったんだよ。」
「反応…?は、反応…?反…応…?」
いや、分かってはいたけどコイツは本当にもう死ぬほどに鈍い女だ。
鈍すぎて腹が立つほどに。
だけど嫌いになんてなれない不思議な女。
「あー…だから…!女とまぐわうには、よ…、反応、しねぇと出来ねぇだろうが。」
「…へ、へぇ…反応…。」
駄目だ、こりゃ。
全然分かっちゃァいねぇ。
首を傾げながらこちらを見上げて答えを待っているようにも見えるほの花に大きくため息を吐いた。
「だーかーらー!!本当に鈍い女だな!勃起しなかったっつってんの!!!言わせんな!このクソ女‼︎」
「へ、え!へ、ひぇええ?!ええ?!」
「驚きすぎだろ‼︎またデコ弾くぞ!」
「あ、や、え…ま、まぁ、奥様じゃない、から…それはし、仕方ないです、よね。」
おーおー、もうこの際だ。
お前のせいでどれほど俺が困っているか全部白状してやる。
全部お前のせいだからな。
「アイツらにも勃たねぇの‼︎だから困ってんだわ‼︎言わせんなっつーの!」
「………?!?!」
その時のほの花の表情はどう形容したらいいか分からない。
大きな瞳から目玉ごと全部こぼれ落ちるのかと思うほど見開いて等間隔に瞬きをして、暫く放心状態に陥っていたのだから。