第35章 約束
──遊女が最終的に何をするか分かってんのか
分かってるに決まってる。
けど、宇髄さんだって此処でたくさんの人を抱いたんでしょ?
なのに私にだけそんな風に言って、子ども扱いしてるのだろうか?
自分は私のことも性欲処理で抱いたくせに。
「は…?他の男に抱かれたいから此処に潜入調査に来たわけじゃねぇだろ?何でそんな淡々としたんだよ。」
「抱かれたいわけないですよ。でも、任務の一環ですし…し、師匠だって潜入調査した時にたくさんの女性を抱いたんでしょう?それならば私の気持ちも分かりますよね?」
もちろん好きでもない人に抱かれたいわけがない。それは当たり前だ。
宇髄さん以外に抱かれたことなんてないし、抱かれたくもない。
だけど、自分は奥様達だけでなく、遊女の人ともまぐわいをしているくせに何故こんなにも咎めるような言い方をするのか理解ができない。
宇髄さんの棘のある言い方にムッとしてしまってじぃっと睨むような視線を向けてしまったけど彼はちっとも怯まない。
それどころか私の肩を押して屋根瓦の上に組み敷くと、怒ったような視線を凶器にして私にぶつけてきた。
突然、押し倒されたような格好に驚いて目をぱちぱちと瞬かせたが、すぐに「離してくださいよ」と抗議を始める。
「…離すかよ。俺の気も知らねぇで…。この馬鹿女が…。」
「俺の気とは…?奥様達を散々抱いていながら、此処で遊女達も抱いてきた師匠が私のことをなぜ咎めるのですか?それならば私のが伴侶はいないのだから遥かに罪は軽いです」
夜に宇髄さんがいる日は眠り薬を飲んで奥様達とのまぐわいを聞かないように配慮したのに、任務とは言え此処で他の女性とまぐわいをした人に、これから私が誰と寝ようが関係のない話だ。
私のことも一度とは言え、性欲処理のために抱いたではないか。
誰でも抱けるんだ、と思った時の私の絶望感を今更ながらに蒸し返すのはやめてほしい。
それでも一度手放した恋なのだからと必死に気にしないようにしていたのに。
「……抱いてねぇ。」
「……へ?」
だから宇髄さんのその言葉に私は意味がわからなくて、彼を見上げてその気まずそうな瞳の奥の真意を手繰り寄せようと彼の言葉を待った。