第35章 約束
「っっいっだぁ!!!」
「あ、わ、悪ぃ悪ぃ!」
軽く弾いたつもりだったが思ったよりも力がこもっていたようで、弾いた額を両手で覆い涙目でこちらを見てくるほの花にすぐに謝った。
いや、流石にやりすぎた。
本当に。
口を尖らせて俺を見つめてくる姿が何とも可愛くて苦笑いをしながらも目の前にいるほの花の頭を撫でてやった。
「…酷いですよぉ…!師匠、ご自分の力舐めすぎですよ…!陥没しちゃいます…!」
「悪かったって…ほら。ごめんごめん。」
「瑠璃さんのより100倍くらい痛かったです…!」
「アイツと一緒にすんなよ。俺は男だぞ?」
本当に瑠璃と仲がいいようで、殴り合いの喧嘩でもしたことあるのだろうか。
数週間前のあの日しか見たことないが、その様子は俺の嫁達とよりも仲がいいくらいで驚いたのだった。
「分かってるなら手加減してくださいよぉ…」
しかしながら今回は俺が悪い。
優しく撫でてやれば不満そうな顔ではあるが、少しだけ柔和な表情も混じってきたので、話の続きをしてみることにした。
「…だからさ、その、客の男に変なことされてねぇか心配だったんだって…」
そう、ただそれだけだ。
潜入調査に入っている以上、遊女として振る舞わねばならないことは分かっている。
でも、だからこそ俺はほの花を止めたのだ。
どうしてもほの花を遊女にしたくなかったから。
遊郭も知らなければ遊女も知らない。
春を売る意味も、体を売る意味もわかっていなかった天真爛漫なほの花。
そんな純粋なほの花を此処に潜入させることで汚されるんじゃないかと思い、どうしても嫌だった。
アイツが他の男の目に触れるのも嫌なのに、実際に触れられるのなんてもっと嫌だ。
師匠のくせして手を出した自分を棚に上げてることは重々承知だが、どうしてもほの花を手放したくなかった。
「…大丈夫ですよー。お客さんはみんな優しいです。」
「や、優しくたって…、お前…、遊女っていやぁ…最終的には何すんのか分かってんのか?」
「そんなの、分かったますよ〜…。流石に子どもじゃないんですから。」
本当にどの口がこんなことを言うのだろうか。
それでも言わずにはいられない。
ほの花を独占したくて仕方ない。