第35章 約束
──すぐにお客さんがつきそうだね
竈門の言ってることもわかるし、万が一その蕨姫とやらが鬼だった場合、ほの花がそいつに近付かずに済むのであれば幸運だと思わないといけない。
俺は一体何を懸念しているのだ。
ほの花の身の安全か?
ほの花が他の男とまぐわうことへの苛つきか?
いや、違うだろ。
此処に何しに来たんだよ。
コイツらは嫁達を探すために潜入調査に協力してくれてるだけ。
此処に来た目的は嫁達の救出だろうが。
何故俺は第一にほの花のことばかりが気になってしまうのだ。おかしいだろ。
俺は絶対に派手に頭がおかしい。
記憶を無くした時に打ちどころがおかしくてほの花のことを意識するようになっちまったとしか思えない。
"俺は師匠だ。コイツは継子だ"
頭に刷り込むように何度もそれを頭の中で呟く。
スゥ…ハァ………
深呼吸をして心拍を落ち着かせるとほの花の頭に手を乗せて乱雑に撫でる。
「…ほの花、慎重にやれ。もし危ないと感じたらすぐに逃げろ。いいな?」
「…はい。師匠」
「竈門ンとこは?」
「あ…はい。俺のところは大した情報はなくて……」
気にしないように
気にならないように
竈門の話を聞くために話題を変えた。
変えなければ気になって仕方なかったから。
最初の定期報告ではやはり大した情報はない。
ときと屋も萩本屋も特に変わったことはないらしい。
一番怪しいのが今のところ京極屋と言ったところか。
ただそれも嫁達の居場所が分かる有益な情報ではない。
(…まだ情報が足りない、か。)
できれば直ぐにでもここからほの花を出したくて仕方ないが、それは叶わない。
今の段階でほの花を連れ帰れば、黄頭に疑いが向けられる。
流石にそんなことは上官としてできない。
俺は柱なのだ。
コイツらを使う立場にいれど、守る立場にもいる。
捨て駒になどしない。
「…よし、今日のところは帰れ。また定期的に連絡を寄越せ。いいな。」
「はい!」と言う返事が聞こえてきたのを確認すると各々屋根の上から降りて行くのを見送りながら俺はほの花の手を掴んだ。
「…ちょっと話があるからお前は残れ。我妻、先行け。」
どうしても聞いておかないといけないことがあったのだ。