第35章 約束
遊郭潜入して二日目となると、お客さんにつかせてもらうことも増えて、私は善子と一緒に座敷に入らせてもらっていた。
明日からお客さんと一対一の接客に入ってもらうと教育係の人に言われていて、ついに来たか…と少しだけ緊張はしている。
でも、それよりも此処に来た目的は雛鶴さんと正宗の救出だ。
この二日間、彼らの名前を一度も聞かない。
ということは…此処には既にいないということ?
まだ少ない情報を手に宇髄さんとの定期連絡に臨んだが、私を見るなり物凄い勢いで睨みつけてきた彼に、思わず悲鳴をあげそうになった。
(…そうだった。制止を振り払って此処に来たから怒ってる…?)
戦々恐々としながらもいくら待っても宇髄さんからお咎めの叱責はされないので首を傾げる。
「ほの花達のところの情報は?」
しかし、炭治郎がそう聞いてくれたことで私は結局宇髄さんから視線を外して隣にいた彼を見た。
「うちはまだ…。雛鶴さんも正宗の名前すらみんな出さない。ただ…すっごい怖い花魁がいるらしい。」
「すっごい怖い花魁?」
「そうそう〜‼︎虐め倒すらしいぜーーー⁈もう俺怖えぇよー…」
「ま、まぁまぁ…頑張ろ?ね?」
善逸を慰めつつ、炭治郎に向き合うと私は言葉を続けた。
「ただ……まだその人に会えてないの。旦那様達が私のことをひた隠しにしてて…」
「ひた隠し…?何でだよ。」
突然私の隣に座ったかと思うと、宇髄さんの声な上から降ってきた。
でも、その声は優しい。
怒っては無さそうだ。
「私を蕨姫に代わる稼ぎ頭にしたいみたいなんです。だからバレないように私は一度もその人に会ったことはないんです。多分稼げるようになったらその人のこと切るつもりなのかもしれません。」
「…切る、ねぇ…。」
「でもほの花ならすぐなれちゃいそうだね‼︎今の着物もめちゃ似合ってるし、話しやすいからすぐお客さんがたくさんつきそうだよ!」
「…え、あ、ありがとう…」
きっと炭治郎に悪気はないし、純粋に褒めてくれたんだと思うけど、私の横からドス黒い空気が噴出したのわかった?
分かるよね?
匂いで感じて。
お願い。
どこにも触れられてないのに私は彼に捕まって動けないような気さえしたのだから。