第35章 約束
遊郭は日が昇るとしーんと静まり返る。
昼間に寝て、夜に活動する。
まさにその活動時間帯こそが鬼が巣食うにはもってこいの場所。
遊郭潜入後の二日後──
とりあえず俺はほの花達に定期連絡をするため召集をかけた。
"無事でいてくれ"という願いが叶ったのか元気にやってきたほの花たちの姿にホッと一息つく。
「あ、師匠〜!おはようございます‼︎」
呑気なもんだ。
俺の顔を見た途端、にこやかな笑顔で挨拶してくれるが、その姿に目を見開く。
艶っぽい色香を漂わせていて、たった二日なのに"遊女"の雰囲気を纏っていたのだから。
(…まさか…、もう客と床入りしたんじゃねぇだろうな?)
遊女であれば客に望まれればまぐわいをするなど当たり前のこと。
まぁ、俺はコイツのせいで勃たなくて出来なかったが。
元よりほの花は生娘じゃない。
恋人とは散々まぐわいをしてきたようだし、俺にだって一度だけ抱かれている。
命令とか言って無理やり抱いたようなものだが抵抗しなかったほの花も悪い。
アレは……合意の下だ。
無かったことにしたいと言うほの花に悔しくてたまらなくなったのを昨日のことのように覚えている。
「あ…ほの花、髪乱れてるよ。」
「え、ほんと?最後のお客様とうっかり寝ちゃったんだよねぇ…」
竈門に指摘されて慌てて髪を整えるほの花だけど、その内容に腑が煮えくり返りそうだった。
客とうっかり寝たとは…?
寝たって…寝た、のか?
さわやかな顔をしてそんなことを言うほの花だけど、内容は全然さわやかではない。
むしろ猥談なのか?と思われても仕方ないようなこと。
居ても立っても居られなくて問い質そうとほの花に向き合うと急に横から声が飛び出してきた。
「ほの花、めちゃくちゃ真剣にお座敷遊びしてたんだよ。それで客も負けん気出して二人で壮絶な遊びになっちゃったんだよね?」
「そうそう〜!うっかり座敷でお客さんとうたた寝しちゃったんだ〜!あはは!」
しかし、その発言によって自分の怒りは少しだけ落ち着いたのがわかるが、チラッと呆れた顔をして見てくる黄頭、善逸に眉間に皺を寄せる。
(…は?何だ、コイツ)