第35章 約束
「え、あの…!ど、何処に…!?」
「黙ってついておいで。」
前後左右全面に女の人に囲まれていて逃げ出すことは叶わない。
いや、逃げ出すことは考えてはないが、拘束されていると言われても問題ないのでは?と思うほどの状態で苦笑いを浮かべることしかできない。
「久しぶりの上玉だからね、うんと綺麗にしてあげよう。」
「こりゃ蕨姫以上になってくれるやも…」
「しっ!おやめ!」
──蕨姫?
途端に口を噤んだところを見るに蕨姫と言うのは地雷のようなものなのか。
いずれにしても此処に潜入したからにはまずは雛鶴さんの情報を得ないといけない。
いくら大きな店だからと言って人ひとりがいなくなれば誰だって気づくはず。
それに雛鶴さんのところには正宗もついていた筈。
そんな簡単にやられたりしないと思うが…。
一番奥の部屋に連れていかれると、そこには眩い程の装飾品の数々。
あまりの煌びやかな部屋の様子に眩暈を起こしそうになった。
「…ひ、…‼︎」
あまりの自分の部屋との違いに軽く悲鳴をあげて後退りしそうになったが、そこは逃げ場のない八方塞がり状態。
引き摺られるように中に連れていかれるとものの数秒で着物を剥ぎ取られた。
「ひ、ぃやああっ!!」
「しっ!黙ってな!」
いや、全員女の人なのは分かってるが、いきなり身包み剥がされたら恥ずかしいし、驚くのは無理ないと思う。
だが、そんなことは私の勝手な想いであり、この人たちからしたら大した問題ではない。私は売られた身(いや、金銭発生してないけど)なのだから郷に入っては郷に従え。
涙目になりながらも黙って身包み剥がされるのを耐えるしかない。
「邪魔な装飾品は捨てとくよ」
しかし、そう言って取り上げられたのは父の形見の首飾り。
宇髄さんにもらった花飾りに耳飾り
そして…あの花火大会の日に最後にもらった思い出の玩具の指輪。
「何だい、これなんて玩具じゃないのかい。みっともない。これから稼ぎ頭になってもらうんだ。もっと目を養わないと駄目だ。」
「や、やめて下さい…!お願いします‼︎なんでも…!なんでもするので…!全部大切な思い出の品なんです!捨てるのだけは…‼︎」
取り上げられた其れらを体で隠して何としても取られまいと必死な私はきっと鬼の形相だったと思う。