第35章 約束
「オイ‼︎なんかあの辺人間がうじゃコラ集まってんぞ!」
気に入らないおっさんの顔を視界から排除したのに、伊之助改"猪子"がワラワラと人が湧いているところを指差してこちらを見た。
「あー、ありゃ"花魁道中"だな。」
「おいらんどうちゅう?見たい!見たい!見せてください、師匠ーー!」
「…ときと屋の鯉夏花魁だな。」
ほの花が後ろから飛び上がってそれを見ようと試みるがおっさんに阻まれて地面にめりめりと足が埋まりそうなほど押しつけられている。
最早ほの花のことを空気とでも思っているようだ。
花魁道中とは1番位の高い遊女が客を迎えに行くものらしくて物凄くお金がかかるらしい。
それにしても"ときと屋"は聴き覚えがある。
あれ、そういえば…さっき炭治郎が売れたところが…。
え…まさか
「嫁⁈もしや嫁ですか⁈あの美女が嫁なの⁈あんまりだよ‼︎三人もいてみんなあんな美女すか⁈」
「嫁じゃねぇよ!こういうのは番付が載るから分かるんだよ‼︎」
それを聞いて一安心したが、よく考えたらほの花だって身近な存在だけどめちゃくちゃ美人だし、この人めちゃくちゃ恵まれてんじゃん。
あ、また腹が立ってきた。
「こいなつおいらんって人見たいです!見せてください‼︎師匠ーー!」
「あー、うるせぇうるせぇ。今日は虫が飛んでんな。」
「虫じゃなくて弟子です‼︎師匠!!見せてくださいよ‼︎」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるほの花だけど、着物のせいでいつものようには飛び上がれないようで苦戦している。
「歩くの遅っ。山の中にいたらすぐ殺されるぜ。」
我関せずの猪子が花魁道中を見て一言言ったかと思うとその後ろに物凄い形相をした女の人が猪子を見つめていた。
「ちょいと旦那。この子うちで引き取らせてもらうよ。いいかい?萩本屋の遣手、アタシの目に狂いはないのさ。」
突然の引き取りの申し出に猫撫で声のおっさんが二つ返事で了承すると、新たな問題が浮上さした。
売ろうとしないほの花はさておき……
「………」
「………」
俺たちの間に無言の時間が流れる。
(やだ‼︎アタイだけ余ってる‼︎)