第7章 君は陽だまり
「いや、本当に大丈夫なので…!何度も言ってますがお気持ちには答えられませんので。」
「僕が勝手について行ってるだけなので。お気になさらず。」
気にします。
本当に帰って欲しいんです。この人は私が遠慮しているとでも思っているのだろうが、そうではない。
隣町からのらりくらり断りながらゆっくり歩いてきたのだが、この人は諦めるどころか諦めが悪い上に空気が読めない。
好いてる人がいると言ってもその場限りの断るための言い訳だと思われてしまうし、お手上げだ。
この人を相手にしているせいで陽はすっかり傾いてしまい、橙色に染まる空は美しいのにそれに浸ることもできない。
漸く自分の町に足を踏み入れると再び後ろを振り向き「着いたので!ありがとうございました!」とお辞儀をして今度こそお別れだと浮き足立つ私にその人はまだ追い討ちをかける。
「何言ってるんですか。家までお送りしますよ。」
困る困る、それだけは困る。
宇髄さんにそんなことバレてしまったら…と考えると背筋が凍りつく。
「いや、本当に大丈夫なので!それに何度も言ってますが、私には恋仲の男性がおりますので!」
「では、その男性が本当にいたら諦めましょう。もしいなければ僕と結婚を前提にお付きあいして頂けませんでしょうか。」
だからどっちも無理なのにーー!
宇髄さんに会わせたくないし、この人とも結婚したくない。というのを一体どうしたら分かってくれるのだ。
本当ならば一般人のこの人を撒くくらい大したことないのに、今日に限って足が痛い。
今日一日の運が悪すぎてこうなっているのならばもう嫌な予感しかしない。
「ごめんなさい、本当に無理なんです。あなたと結婚するつもりも恋仲になるつもりもありません。どうぞここでお引き取りを…。」
「断る口実で恋仲の男性がいると言っているのは分かってますよ。時間稼ぎをしてもダメですよ?」
時間稼ぎではなく、この人のために言ってあげてるというのに。
宇髄さんに凄まれたらこの人、チビってしまうのではないだろうか。