第7章 君は陽だまり
「まだ何か?」
所謂通せんぼ状態の青年を少しばかり睨むように見つめてみるが、ヘラヘラと笑っている彼に肩を落とす。
(空気読めない人だ…。)
「あの、お名前は…?」
「名前?聞いてどうするおつもりですか?急いでいますので…。」
先ほど初めて会っただけの青年に自分の名前を名乗る意味がわからない。それよりも急いでいると言うのに尚のことその場を退こうとしない彼は本当に空気の読めない人だ。
「…その…、こんなこと言ったら怪しい人だと思うかもしれませんが…。」
もう既にその青年のことは怪しいどころかかなり空気の読めない男だと脳が認識しているので心配せずともそれが覆ることはない。
心の中で精一杯の反論をしつつ、よそゆきの笑顔をしている私は大人の対応をしてると思う。
「何でしょう?お早めにお願いします。」
「一目惚れをしてしまったようなんです…!!」
「…は?」
私はつい今まで物凄く人として素晴らしい態度をとっていたと思う。早くしろと罵ることもせずににこやかに丁寧に対応した。
早く帰りたいところなのにこの寛容な態度は自分で自分を褒めてあげたいくらいだ。
それもこれも早く帰らないと宇髄さんが帰ってきてしまうと任務帰りなのに心配させてしまうから。
今日帰ってくるなんてわからないのに、こう言う時に限って早く帰ってくるものなのだ。
だから"あら、そうなんですね!失礼します"で帰ってやろうと思っていたところに度肝を抜かれることを言われて完全に動きが止まる。
「…え、と…はい?」
「帰るところなら一緒に行きます。足を少し引き摺ってるようですが肩を貸しましょうか?」
「いいいいえ!け、結構です!一人で帰れますので!」
「怪我をしている女性を一人でなんて帰せませんよ!ほら、肩につかまってください。」
一目惚れをしたと言って退けたこの人の肩を借りるということはこの告白を了承したと思われるかもしれない。
そこまで考えると脳裏には鬼の形相をした宇髄さんが浮かんで冷や汗が流れ出た。