第7章 君は陽だまり
通りすがりの男性に聞いた薬屋さんには辿り着いたが、そこにも"ぺぱーみんと"や"かもみーる"は置いていない。
それどころか皆口を揃えて「知らない」と言う。
風邪をひいたりすると、薬だけで無く母は西洋薬草を使った薬膳茶を必ず出してくれた。
喉が痛む時は消炎作用のあるものを…
熱がある時は解熱作用のあるものを…
気分がすぐれない時はリラックスできるものを…
母が見繕ってそれを煎じてお茶として飲ませてくれたが、決して薬というわけではない。
もちろん遥か昔はこれを薬として使っていた国もあると聞くが、今じゃかなりの種類の薬が流通している以上、西洋薬草はどちらかといえば民間療法に近くて、薬として用いられることはないと言っていた。
それでも母は症状が少しでも緩和するようにと薬の他に必ず薬膳茶を煎じてくれていたのだ。
産屋敷様は御本人も言っていたが"長くは生きられない"のは間違い無いのだろう。
だとしたら民間療法を少しでも使って一日でも、数時間でも体が楽に感じる時間を長くしてあげたい。
この分だとあの薬草を手に入れるのは難しそうだ。里では母が家庭菜園で育てていたからいつでも取り放題だった薬草故、まさか手に入れるのにこんなに苦労するとは思わなかった。
このまま当てもなく探し続けても時間だけが過ぎてしまうだけだ。一旦出直そうと踵を返す。
もうあと一刻も経てば陽が傾き始める時刻になっていたため、急ぎ足で元来た道を歩いていく。
「あ…ねぇ!君!」
寄り道する時間など惜しいと思っている時ほど声をかけられたり、用事ができたりする現象は何なのだろう。
痛む足に再び叱咤激励をしながら歩いていると先ほど自分が声をかけた青年が立っていた。
「…先ほどはありがとうございました。…何か?」
「お目当てのものは見つかったかな?」
「いえ、残念ながら…。もう直に夕方になりますので本日は帰ります。失礼します。」
早々に話を切り上げて歩き出すが、今度は目の前に飛び出てきて進めなくなる。
もう帰ると言っているのに聞こえなかったのだろうか。随分と空気の読めない青年に苛立ち始めた私は大きくため息を吐く。