第35章 約束
(…何だろうな、この変な気持ちは)
ほの花を孕ませられなかったことを悲観してるのは間違いないけど、これでコイツの元恋人に孕まされていると言うこともなくなった。
昨日の不貞行為を隠すどころか孕ませられなかったことに心底残念だと思う俺がおかしいのは分かっている。
だけど、恋人とのややを身籠ってもいないのならばこれ以上望むことはないとも思う。
喜びのが大きいようにも思うのに、やはり孕ませられなかったことが残念だと俺の中の俺が言っている。
よく分からない。
不思議な気持ちだ。
相反する気持ちが混在していて気持ち悪い。
「師匠?どうかしました?」
こんなわけのわからない心模様をほの花に話すことで答えが出るわけがない。
そもそもほの花に話すこと自体が間違ってる。
でも…少しだけ聞きたかったことがあった。
「あー、いや…。俺が…言うのも間違っちゃいると思うけどよ…、その男と、結婚して子供が欲しいとか…思ったりしなかったのかよ。」
昨日、問答無用で膣内射精して、自分のものだと言うことを知らしめようとした男の台詞ではないと分かっている。
ただ聞かずにいられなかった。
聞きたかった。
知りたかったから。
ほの花は驚いたようにこちらを見上げると曖昧な表情をした後、目線を外してポツリと話し始めた。
「…思ったこともありますけど…。私、経口避妊薬飲んでるので…妊娠は余程しませんし、鬼殺隊である以上、志半ばでの結婚は考えていませんでした。いつ死ぬかわかりませんので。」
経口避妊薬…?
ああ…そういう、ことか…。
話の口ぶりからすれば完全に避妊できるようなモノではないみたいだが、これでその恋人との間にも、俺との間にも子ができなかったことを考えると随分と優秀な薬師だ。
こんなところでまで優秀さを出さなくていいと言うのに…。
いや、助かったのか。
万が一、この状況でほの花に前の男との子が出来ていたら俺はまともな神経でいられる自信がない。
そんな考えが浮かぶこと自体ダメだとわかっているが、ほの花のことを独り占めしたいだなんてわけのわからない独占欲が頭から離れないのだ。
たかが継子に、だ。
自分が自分で信じられない。