第35章 約束
「避妊薬…ね。鬼殺隊だから…、飲んでたのか?」
「そうです。」
「恋人は…知ってたのかよ。」
「はい、知ってました。全て終わったら…添い遂げる約束をしていました。もちろん、そんな甘いものではないとも、思ってましたが…」
宇髄さんは怒るわけでもなく、淡々と質問してくる。内容はもちろん恋人だった昔の宇髄さんの話。
何でかなぁ…?
何でこんなことになっちゃったんだろう?
何もかもがこんがらがってしまって自分のことではないみたいにふわふわしている。
いつのまにか其処は縁側。
宇髄さんがお盆を下に置くとその場に腰を下ろし、次いで私の手を持って引っ張るので隣に腰を下ろした。
優しく、女性扱いしてくれる彼に胸が苦しくなる。
自分の欲に負けて昨日、体を重ねてしまったから?ひょっとして責任を取ろうだなんて考えてる?
「…そうか。もったいねぇことしたな。」
「もったいない…?ですか?」
「死んじまったらお前を娶ることはできねぇだろ?早いとこ娶った方が良かったってことだ。」
そうなのかな?
そう、かな?
いや、宇髄さんのお嫁さんになっていたらもっともっと危険性は高い。
彼が守るものがたくさんになってしまうのだから。
そのために私は彼の記憶を消した。
「ふふ。師匠は…幸せになってくださいね?そして来世で私が想い人と添い遂げられるように祈ってくださいよ。」
私はお盆の上にあったおにぎりが乗ったお皿を彼に差し出した。奥様達が作るもののような豪華な朝餉ではない質素なもの。
でも、彼と食べるならなんでも幸せ。
なんでもいい。
宇髄さんからしたら嫌かもしれないけど…。
わたしは幸せだ。
「…お前だって、何も諦めるこたぁねぇだろ。」
「ふふ。おにぎり食べないんですか?わたしが全部食べちゃいますよ?」
「…食うけど。」
その言葉への答えは今は言えない。
瑠璃さんと約束した。
私は彼と生き残って必ず伝えるって。
「いい天気ですねぇ…。あったかくて眠たくなりますねぇ。」
「…ババアみたいな会話やめろ。今起きたばかりだろ。」
「私は二刻は起きてますけど?!」
「……悪かった。」
ごめんなさい、宇髄さん。
でも、必ず言うから。お小言はその時お願いします。
今はまだあなたの継子でいさせてください。
約束は必ず守るよ。