第35章 約束
目が覚めると久しぶりに大好きな匂いと温もりに包まれていることが幸せでずっと此処に居たいと願ってしまう。
しかし、それは下腹部に感じた鈍痛ですぐに現実に引き戻された。
(…あれ…?ひょっとして…)
久しぶりの感覚。
精神的につらいことが続くと、途端に月のモノが遅れるのはいつものこと。
でも、最後の情交のとき、宇髄さんは膣内射精したのを今でもしっかり覚えている。
少しだけ
ほんの少しだけ
彼との御子が宿ればいいのに、と思っていた。
そんな取り止めのない希望が頭の片隅にあったのは事実。
月のモノが遅れれば遅れるほど、ひょっとして…と思わざるを得なかったけど、今それは杞憂だったことがわかる。
がっちりと抱きしめてくれている宇髄さんの腕を引き剥がすと慌てて厠に向かった。
遅れていたせいなのか夥しい量の血液量に少しだけ血の気がひく。
「……来ちゃった…」
今も尚、飲み続けている経口避妊薬は避妊を目的とする薬だが、月経痛を軽くするためでもあった。
時期的に昨夜の射精も何の意味もないだろう。
彼とはやはり結ばれない運命なのだ。
それは分かっていたけど、彼と生きた証が欲しいだなんて願ってしまった私は愚かだ。
人の命をそんな風に考える女のところに御子など宿りやしない。
これで私は彼との御子を身篭ることは無くなった。
昨日の行為が継子として最初で最後のまぐわいだからだ。
二度としない。
奥様達のためにもこんな行為は駄目だ。
私はそもそも雛鶴さんも、まきをさんも、須磨さんも大好きなのだ。
彼女達を裏切るようなことをしておいて、今さらこんなことを言っても何の説得力もない。
でも、傷つけたくないという気持ちだけはある。
月のモノの処理をすると厠を出て自分の部屋に向かった。
避妊薬を飲んでいて月経痛は軽くなったとは言え、痛みはある。
早めに痛み止めを飲んでしまおう。
薬箱から自分の作った痛み止めを飲み干すと天井を見上げた。
「……にっが。」
いつも通りその苦味が脳天を突き抜ける。
でも、今日は目に涙まで溜まった。
「…天元、との子が欲しかった、な…」
二度と叶わないその願い。
でも、言うくらいは許される?
お願い、許して。
二度と言わないから。
手に入らないから子が欲しいだなんて浅はかな考えをしてしまった私を許して。