第34章 世界で一番大切な"師匠"※
二人で暮らすようになってから一週間が経つ。
いつもは一緒に夕食を摂るようにしていたが、今日は遊郭の偵察の帰りに急に虹丸から指令を言い渡されて仕方なく鬼の殲滅に向かった。
そのため今の時間は日付が変わる間際。
ほの花には遅くなれば寝ていろとは言ってあるので今頃夢の中にいることだろう。
急いだところで同居人は寝ているというのに、はやる気持ちがあった。
急いでも仕方ないと思う反面、アイツに何か起こってないか勝手に心配してしまう癖があるのだ。
同じ敷地内にいれば何かあれば俺もいる。
しかし、寝ている時に寝込み襲われたりでもしたらさすがのほの花も無事では済まない。
相手は鬼とは限らない。
外見最強のほの花が人間の男に目をつけられたりして、人気のない屋敷に忍び込む可能性だってあるのだ。
自分の継子に手を出されたらたまったもんじゃない、と。俺は焦っていたのだ。
屋根と屋根の間を飛んでいき、最短距離で自分の屋敷に到着すると、いつものように庭に降り立った。
すると、ほの花の部屋から灯りがついているのが目に入った。
まさか誰かが忍び込んだのではないだろうな?と慌てて彼女の部屋に近づくと、足音に気付いたのか部屋の襖が開かれた。
「あ、おかえりなさいませ。師匠!」
そこにいたのは夜着を着て髪を下ろしているほの花の姿。
化粧っ気は一切無く、素肌を晒しているのに何故か物凄く色気を感じた。
ドクンと脈打つ自分の心臓に気づかないふりをして、縁側に腰掛けるとほの花を見上げる。
「お前な、寝てろって言ったろ。こんな時間まで起きてて風邪ひくぞ。夜風はだいぶ涼しいんだ。」
いつの間にか季節は秋に移り変わり、夜はひんやりと冷たい空気が突き刺してくる。
華奢な彼女がそれに晒されればすぐに体調を崩すのではないかと気が気でない。
「いえ、師匠。お夜食召し上がらないかなと思い、起きておりましたが、日付が変わればお先に休ませてもらうつもりでした。」
そう言って笑う彼女は本当にただの継子だろうか。
やってることは夫を待つ良き妻ではないか。
継子だから師匠の帰りを待っていると言うのも考えられなくはないはずなのに、その考えよりも先に浮かぶそれは俺の願いなのか?