第34章 世界で一番大切な"師匠"※
突然始まったほの花との二人の生活。
始まったのには理由があるし、意図せずになったことだが、さぞかし気まずい空間になることと思いきや、そんなことはない。
不思議と心が落ち着いて、今まで感じていたモヤモヤは嘘みたいに晴れた。
ほの花は変わらず「師匠」と呼んではくるが、それも二人だけの空間によってだいぶ嫌悪感は緩和される。
毎日、ほの花の飯を食えて、身の回りのこともほの花がやってくれる。家の掃除も洗濯も全てほの花。
その状況に満足しているのかとにかく気分がよかった。
嫁達との定期連絡の手紙を二人で食い入るように見るのも日課だ。
「…良かった…!」と言って嫁達の無事を喜ぶほの花の笑顔を見られるのも嬉しかったりする。
「あ!もうこんな時間!お昼ごはんの支度をしてきますね!」
「大変なら外に食いに行ってもいいけど?」
「奥様達が大変な任務をしている最中に外食だなんて贅沢できません。すぐできますのでお待ちください!」
しかし、それと同時にほの花に余計な仕事が増えたのは間違いない。
日中は鍛練もしながら、家事をやり、薬も作らなければならない。
俺も手伝えることは手伝いたいが、如何せん今まで碌にやってきていなかったので、おんぶに抱っこ状態。
見兼ねて外食案を出してみるが、ほの花が首を縦に振ることはない。
「…たまには外に食いに行ってもいいだろーが。」
俺は何もほの花の仕事を増やしたかったわけではない。
アイツらが潜入してくれているが、未だ有益な鬼の情報はない。
頃合いを見てこちらに戻すことも考えた方がいいだろう。
長くなればなるほど中で動きにくくなるかもしれないし、それに伴い危険も及ぶ。
元よりほの花を潜入させる気はなかったのに自分がいけないことでひどく憔悴していたことは記憶に新しい。
アイツらの中の誰かとほの花を交代させても良かったかとも一瞬思ったが、考えはすぐに払拭された。
駄目だ。
ほの花は。
絶対に。
理由はない。
兎に角
絶対にほの花だけは潜入させない。
俺の心が全力でそれを拒否した。