第34章 世界で一番大切な"師匠"※
私が何を言っても"既に決定事項だ"と言われて取り付く島もなく、翌日奥様達と正宗達は六人で出て行ってしまった。
「ほの花さーん!天元様のお世話よろしくお願いしますねー!」
元気な須磨さんの声に苦笑いを返すことしかできない。万が一のことが起これば、本当に何のために宇髄さんの記憶を消したのか分からない。
私が彼女達を守らなければならないのに。
正宗達が行ってくれてるのは確かに助かるが、彼らに何かあってもそれはそれで困る。
私の大切な家族なのだ。
里の生き残りで共に幼い頃から育った大切な人たち。
誰も死んでほしくないなんて綺麗事だとは思う。
でも、せめて自分の身の回りの人だけは助けたい。死んでほしくない。
たったそれだけなのに…
うまくいかない。
宇髄さんとの並んで六人を見送ると彼が声をかけてきた。
「ん、じゃあ、久しぶりに稽古つけてやるから庭に来い。」
「…心配じゃないんですか?」
「危なくなれば逃げろと言った。それにアイツらのことは信頼してるからな。お前も役に立ちてぇなら強くなれるように鍛錬に励め。」
「…はい。わかりました」
信頼、か。
宇髄さんは奥様達を信頼しているから行かせた。
でも、私のことを信頼していないから行かせなかったわけではないと分かっている。
それでもこんなにモヤモヤするのは思い描いていたものでないからだ。
それは自分の想像力が足らないことが原因だ。そもそもどんな鬼が出るなんてわからなかった。
こんな事象が起こることも想像できなかったが、それでもあらゆることに想像力を働かせておくことはできた。
結局、私は目の前のことしか見えていなかったのだ。
「…師匠が出向くときは私もお供させてください。」
「それはその時の状況による。」
「約束してください!私も役に立ちたいんです!!」
焦っていた。
自分の役割を全うしたくて。
生き急いでいると思われても、自分がしたことの意味がなくなることを恐れていた。
懇願する私を見下ろす宇髄さんはため息を吐くとポンポンと頭を撫でてくれた。
でも、「分かった」とも言ってくれなかった。