第34章 世界で一番大切な"師匠"※
詩乃達に別れを告げると、とりあえず一旦屋敷に帰ってきていた。
潜入調査は失敗に終わった。
次の手を考えなければいけないからだ。
客としては駄目だ。
中のことまではやはり分からない。
かと言って自分が女装して中に入るには無理がある。
しかも、3軒の怪しい店に身一つでは難しい。
誰か女の隊員を潜入させるか…。
しかし、一体誰を?隠密に行動できない奴はボロが出てしまう可能性がある。
纏まらない考えを引っ提げながら屋敷の玄関を開けると玄関の掃除をしていた須磨が「天元様!!」とでかい声で叫んだ。
あまりの声のデカさに一瞬たじろいだが、家に帰ってきたという実感ができてホッと一息ついたのも事実。
「お、おー。ただいま。」
「おかえりなさいーー!!雛鶴さーーん!まきをさーーーん!!天元様帰ってきましたよぉ〜!!あ、ほの花さーーーん!って、ほの花さんはお出かけ中だった…!」
「…ほの花出かけてんの?」
「はい!お館様のお屋敷に行ってくると言ってました。」
アイツのせいで散々の目に遭った。
とは言え、当の本人は全く悪くないのだから責めるのはお門違いだろうが。
須磨の声で続々と嫁達が集まってくると同時にほの花の元護衛達も総出で出迎えてくれる。
最早ちょっとしたでかい家族だ。
「お疲れですよね?お茶を淹れますので居間にどうぞ?」
「ああ、……。」
三人の嫁達の後ろ姿を見て、俺は一つの作戦を思いついてしまった。
しかし、それは…とてもじゃないが嫁にさせるようなことではない。
本来ならばそんなことさせる夫など最低だ。
いや、潜入調査に行ってきた時点で、確かにほの花の言う通り…良くないのかもしれないが。
俺には命の順序が明確にある。
守るべきはあの三人の嫁だ。
それなのにこんな考えは間違ってる。
間違ってるのに……
夫としての理性か
鬼殺隊柱としての責務か
天秤にかけることなど本来ならばいけないことだ。
間違ってるとは思うのに、それと同時にくのいちとしてのコイツらの実力も理解して信じているのも俺だと心得ている。
「…雛鶴、まきを、須磨。あとで全員居間に来てくれ。」
不思議そうに首を傾げる三人を見て、申し訳ないと思いつつ、俺の心は決まっていた。