第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「お見受けするところお酒をかなり飲んでいらっしゃいますね。お酒の過剰摂取は消化器官に多大な影響を与えます。」
「お前に、関係ないだろ?!音柱を呼べ!!継子の躾がなってないと説教してやる!!」
「師匠を呼ぶのは構いませんが、その前にそのお酒をこちらに下さい。白湯を飲み、薬を飲んで下さい。顔色が悪いです。」
愼寿郎さんの顔色は青いよりも黒い。肝臓に負担がかかっている証拠だ。一刻も早く辞めなければ命に関わるだろう。
私は彼の前に手を差し出すと酒瓶を渡すように目で訴えかけた。
「黙れ!お前に関係ないだろう?!帰れと言っているのが聴こえないのか?!この異人風情めが!!」
確かに私は日本人の容姿とは少し違う。そう思うのは無理はないし、そこは受け入れる。だけど、関係ないわけではない。
私は炎柱煉獄杏寿郎さんよりちゃんと処方依頼を承ったのだ。
それこそが私の職務だ。
「私は薬師として依頼を受けました。既に下痢や嘔吐の症状が出ているのではないですか?このまま飲み続ければ命を削るだけです。」
「だから何だ?!貴様に何の関係がある?!俺が死んでも誰も困らんのだ!」
「人が死ぬことを困るとか困らないとかそういう物差しで計るのはやめてください!!」
思わず大きな声で叫んでしまったが、あまりの声の大きさに奥から「ほの花さん?!」と千寿郎君が出てきてくれた。
(…ああ、もう少し早く会いたかったよ…)
トホホ…と肩を竦ませると彼に笑顔を向けて、再び愼寿郎さんに向き合うと驚いたような顔をしていた。
「…誰もが人はいつか死にます。大切なのはその時が来るまでどういう生き方をするかです。」
煉獄さんは生き返ったりしない。
でも、その生き様は炎柱として誇り高い最期だったと思う。
「私は薬師です。私も煉獄さんのように責務に恥じない生き方をしたいので、どうぞ薬の処方をさせて下さい。」
「……勝手にしろ。」
私の頑固さが伝わったのか、再び部屋に戻るため横を通り過ぎようとしたので、手に持っていた酒瓶を取り上げた。
「これは…お預かりします。」
「…ふん。小娘が。」
「昔、身長が高いことを揶揄されたので小さい娘と言われるのは嬉しいです」
心配そうにこちらを見ている千寿郎くんに目配せをすると鼻を鳴らしながら部屋に戻ってしまう彼の後を追いかけた。