第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「ごめん、くださぁーい。」
私は真っ直ぐに煉獄家へと向かうと玄関で出来れば千寿郎君が出てきてくれないか恐る恐る声をかけた。
炭治郎から煉獄さんのお父様の話は聞いていて、少しだけ気難しいとのことだったので薬なんて持ってきたと言えば「帰れ」と言われてしまいそうだからだ。
しかし、なかなか出てこない千寿郎くんにもう少しだけ大きめな声で「ごめんください〜!」といえば、「うるせぇ!!」という声が奥から聴こえてきた。
その瞬間、ビクッと肩を震わせたが、明らかにその声は千寿郎くんではない。
…と言うことはお父様である愼寿郎さんだ。
どすどすという音を立てながら歩いてきたその姿はかなり年上の煉獄さんと言った出立ちであんぐりと口を開けてしまった。
(…いや、宇髄さんから聞いてはいたけど本当に全員そっくりだなぁ…)
正直後ろから見たら分からないのではないか?と思うほどだ。
「誰だ、お前は!!」
その手にはお酒の瓶が握られていて、目は据わっていた。
距離が近づくとその匂いがより鮮明になり、ため息を吐く。
"父上には胃腸薬を 酒を飲みすぎる故頼む"
それは間違いないようだ。
しかし、彼の気持ちもわからなくはない。
大切な息子を一人失ったのだ。自暴自棄になる気持ちも分からなくはない。
「…お初にお目にかかります。音柱様の継子で産屋敷様の専属薬師の神楽ほの花と申します。」
「あの小童の継子だぁ?何しに来た!?」
宇髄さんのことは知っているようだが、愼寿郎さんから見たら彼すら小童なのか。
縦寸はさておき、年齢は随分上なのだから当たり前か。
「煉獄さん…えと、炎柱煉獄杏寿郎様より承っていた薬を届けに参りました。」
「…杏寿郎がぁ?!…いらん!帰れ!!」
「いえ、しかし…処方依頼を承っております。読み上げます。"父上には胃腸薬を 酒を飲み過ぎる故頼む"とのことです。」
「っ、よ、余計な世話だ!!」
私を通り過ぎて、玄関の引き戸に向かうと愼寿郎さんはこちらに厳しい視線を向けて「出て行け」と凄んできた。
流石は元柱だ。
空気が変わったのが分かる。
しかし、私も此処で引き下がるわけにはいかないのだ。