第34章 世界で一番大切な"師匠"※
何人の人と交わったの?
私よりも…いや、奥様たちよりも気持ちよかった?
そんな失礼なことも聞きたい反面、早く顔を見たいと思う欲もある。
だけど、今のわたしでは走っていって彼に抱きつくこともできない。
それは私の役目じゃない。
小さく蹲って、呼吸が整うのを待つ。
ドクンドクン…と心臓が煩い。
急にホッとしたからなのか全身に血が循環していく感覚が身体中を駆け巡っていた。
「…よかった、生きてて…。」
今すぐ顔が見れずともその事実が分かっただけでもホッとした。
心臓の拍動が治るのを待っていたが、いつまでもこんなところにいるわけにもいかない。
本当はすぐに帰るべきだろうが、奥様たちがいれば私が必要なわけではない。
遠回りして帰るついでに私はある人のところに向かうことにした。
頼まれていた物をようやく届けようと思ったのだ。
もっと早く行けたら良かったのだが、なかなか心の整理がつかなかった。
踵を返して向かう先は煉獄家。
煉獄さんに"自信を持て"と言われたのに、持てなくて結局はずるずる時間だけが経ってしまったのだ。
自信を持つとは何なのか。私には分からなかった。
薬師として煉獄さんが評価してくれていたのならば薬で役に立つことはできる。
だけど、それで自信を持てるかどうかと言えばまた別問題なのだ。
結局、薬の力で宇髄さんの記憶を消してしまったわけで、唯一自信を持てるところを使って大切な人を消した。
その罪は重い。
きっと煉獄さんならば「君の考えは理解できないな!」と言ってきそうだ。
瑠璃さんのようにばちんと叩いてきたりはしないけど、彼の言葉は真っ直ぐで突き刺さる。
でも、瑠璃さんと約束したから。
私の最終的な着地点を見つけたから。
全ての戦いが終わったら宇髄さんに打ち明けること。
それがわたしの贖罪だ。
嫌われても罵られても全てを受け入れる。
だから煉獄さん。
間違ってしまった私をどうか叱ってください。
でも、きっとこれをやり遂げた後、私は自信を持てると思うんです。
彼を命がけで愛した自分を好きになれると思うんです。
やり方は間違ってしまったかもしれないけど、私は始めたことをやり抜きます。
だから…見守っていてください。