第34章 世界で一番大切な"師匠"※
宇髄さんが潜入調査をしに行くと言って出て行ってもうすぐ三週間になる。
頭の中にはもちろん体を売るお仕事をしているその人たちとの情交のことばかり。
奥様たちとの性事情は正直わからない。
宇髄さんが夜いる時はなるべく睡眠薬を飲んで深い眠りにつくようにしていたから、自然とその情交中の声を聞くことはない。
そうすることで自分を守っていた。
そうすれば幾らかは気にしないで済んだから。
最初は頭がおかしくなるほどの嫉妬は駆られていた。
だけど、一番最初にまきをさんが来た時以来、わたしは人知れず、ずっと自衛していたから知らないでいられた。
知ってしまえば、嫉妬でおかしくなってしまうから。
それなのに今度は遊郭とかいうところに潜入調査に行くと言う。
鬼がそこにいるかもしれないと言うならば仕方ない。
彼は鬼殺隊の柱なのだから。
鬼がいれば滅殺するためにその場所へ赴くのは当たり前のこと。
たまたま遊郭だった。それだけのことだ。
私はといえばいつも通りの生活を送っていて、今日は産屋敷様邸に行き、薬の調合をしてきた帰りだった。
どんどん悪化していく彼の病状は食い止めることはできない。
また少しずつ力を使うようになっていたが、体調に大きな変化はない。
またこれが溜まったらこの前みたいなことになるのは目に見えてるが、もう使わざるを得ないところの域に達している。
薬だけではどうしようもならない。
使わなければ半年と持たないかもしれないと思えてならない。
せめてあと何年か生きていてもらいたい。
いつも通りにしのぶさんに力を使った旨の報告をすると宇髄さんの屋敷に向かっていた。
大きな薬箱は行きよりも軽いはずなのに重く感じるのは精神的なものなのか、それとも体力的なもにのか。
それさえ判断はできないが、歩みは確実に宇髄邸へと近付いている。
そして近くまで来ると、聞き覚えのある声が聴こえてきた。
「わぁい!おかえりなさい!天元様ぁーー!!」
須磨さんの声だ。
──おかえりなさい、天元様
それはあの人が帰ってきたことを示している。
その瞬間、肩の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
だってホッとしたの。
ずっと気を張っていたから。
嫉妬に駆られたとしても
"生きていて欲しかったから"