第34章 世界で一番大切な"師匠"※
目星は付けてある。
ときと屋
萩本屋
京極屋
この三軒はどこも怪しい。
全部に潜入して、太客になれば情報が掴めるかもしれない。
そう思い、潜入調査を決めた。
しかし、一番の稼ぎ頭である花魁は人気も凄い。
ド派手に色男な俺を相手にするならばそれくらいでないと困るが、太客にならない限り初回でそれは難しいだろう。
──吉原 遊郭
男と女の見栄と欲
愛憎渦巻く夜の街
「お兄さん、寄っていかないかい?」
藤の家で身支度を整えた俺は怪しいと思っていた場所の一つ。ときと屋の前に来ている。
少しでも金を落として欲しい店側はあの手この手で誘ってくる。
もちろん俺は潜入するためにきたのだから入ろうと言うのは決めていたが、少しでも位の高い遊女について欲しい。
下っ端は駄目だ。
店のことをまだ知らない奴らが多いはずだ。
「んー、そうだなぁ。」
「お兄さん、色男だねぇ!うちの子達粒揃いだよ?是非寄っていってよ。」
「でも俺は色んな女を見てきたからね。ちょっと女にゃ煩いよ?粒揃いでも気に入らない可能性があるぜ?」
此処であの手この手を使い、自分の店の遊女がどれほど優れているのかを論説してくるので、駆け引きを使って少しでも上の位の女を寄越して欲しい。
「そうだねぇ、うちの鯉夏花魁はイチオシだけど客が多すぎてねぇ。二番手だが、詩乃はどうだろうか。初回の人に付けるなんて滅多にないが、どうだい?」
「詩乃、ね。まぁ、今日のところはそれで手を打つか。」
「そうかい?!じゃあ入っとくれ!」
そこはもう分かっていたこと。
鯉夏の下が詩乃だということも。
思ったよりも早く詩乃を出してきたと言うことは今日は客入りが悪いようだ。
まぁ、駆け引きが早く済むのであればそれに越したことはない。
俺は店主に促されるままに店の中に入っていった。
通されるのは一つの薄暗い部屋。
此処でするのはたった一つ。
今から漸く欲が解き放たれるかと思うと、若干の後ろめたさはある。
嫁に欲情しなくて勃起しないなんて不能もいいところだからだ。
とにかく今日は善くしてやって、少しでも自分のことを良い客だと思ってもらうことが先決だ。