第34章 世界で一番大切な"師匠"※
静まり返った空気の中、お互いの呼吸音が聴こえてきそうだった。
ついに恐れていたことが起こる。
いや、始まるのかもしれないという武者震いのような震えがきた、
「…十二鬼月…ですか。」
「ああ。お前は何も気にせず、此処で鍛錬を続けてればいい。」
「わ、私もお供します!師匠の背中を守らせてください!」
そのために私は彼との関係性を切った。薬を飲ませたのだ。
此処で役に立てなければ何の意味もない。
「…ばーか。まだ戦闘になるわけじゃねぇよ。とりあえず潜入してくるからよ。暫く帰れねぇ。それに女がくるようなとこじゃねぇんだよ。」
「え…?…女は入れないところなんですか?」
「あー…まぁ。入れなくはないが、これからやろうとする潜入調査は女じゃ駄目なんだわ。」
女がくるようなところではない?
潜入調査で女じゃ駄目?
益々分からない。
そんなところあるの?
首を傾げて宇髄さんの言っていることを何とか理解しようと試みるが如何せん私は、陰陽師の里育ちで普通の人より世間知らずだ。
周りが知ってるようなことも知らなかったりするのでなかなか正解には至らないだろう。
「…それってどんなところですか?」
「遊郭。」
ゆーかく…?
ゆーかく?
ゆー、かく?
あれ、どこかで聞いたことがある気もするけど…
それは私が今まで生きてきた中で、特に通ってこなかった場所なのだろう。
「…ゆーかくって何ですか…?」
「おい…マジかよ。」
明らかに動揺する宇髄さんにやはり普通は知っているべきことなのだろうと恥ずかしくなって下を向いた。
「す、すみません…里が山奥で…人より世間知らずなもので…教えてもらえませんか。」
「教えるって…なぁ。」
「言いにくいことなんですか?」
「すげぇ言いにくい。」
言い淀む宇髄さんはハッキリと言いにくいことなのだというので私はショボンと項垂れた。
正宗にでも聞いた方がいいだろうか。
「…要するに…」
でも、もう聞くのを諦めかけた時、宇髄さんが再び話し始めた。
「…春を売ってる女たちがいるところだ。」
「え?!今、女は駄目って言ったじゃないですかー!」
言ってることと全然違うことを言い出す宇髄さんに思わずぷんすか怒ってしまった。
こちらは付いて行く気満々なのだから嘘を吐かれたらたまらない。