第34章 世界で一番大切な"師匠"※
瑠璃さんが帰ってから二週間ほど経った。
あの日以来、宇髄さんは極力私との接点を避けているような気がした。
避けられるのもツラいけど、色々なことがわかって来てしまって今、下手に突っ込まれてしまうとちゃんと上手く対応できるかわからない。
しかし、幸いなのは稽古はちゃんとつけてくれるし、話しかければちゃんと普通に話してくれるのはありがたい。
きっと宇髄さんも記憶がない中で自分の体に染み付いた感情に何とか抗おうとしているのかもしれない。
瑠璃さんは「もしまた宇髄さんが私を好きになったら…?」とタラレバの話をしたけど、今のところこの距離感があればそんな心配はなさそうだ。
彼にまた好きになってもらえたなら…。
なんて夢物語を思い浮かべてしまうと、やはり嬉しいなと思う。
だって私はまだ宇髄さんのことが好きだ。
どう考えても彼以外を好きになることは出来なさそうだから。
部屋で薬を作っていると外から「ほの花、入るぞ」と声が聴こえた。
その声は宇髄さんだ。
あれ以来ちゃんと外で声をかけてくれるようになったけど、恋人時代は無遠慮に入って来ていたのだからその名残で起こってしまった事故に過ぎない。
「はい!どうぞ。」
そう言うと数秒後に漸く入ってくる宇髄さんは紳士的だけど、その距離感はどことなく寂しさも感じる。
襖からチラッと覗いてから問題ないと確認してから調合台まで来ると、その前に座った。
「師匠、どうかされましたか。」
「ああ。鬼の情報が出たから今日から暫く張り込みに行く。明日からの鍛錬の内容を此処に書いてあるからこれをやっておけ。」
「あ…はい。ありがとうございます。」
今でもこんなことは何回もあったこと。
それなのにこんな風に鍛練の内容を渡して来たことなどない。
それを受け取ると目の前で難しい顔をしている彼に不安がよぎった。
「…師匠?どうか、されたんですか?」
「…ほの花。まだ暫くは様子見の予定だ。ただ…何回も下見に行って来たが、姿を隠すのが妙に上手い。」
「…姿を隠すのが上手い?…ということは?」
「…十二鬼月、それも上弦の可能性がある。」
その瞬間、私は全身にゾクリと鳥肌がたった。
煉獄さんが亡くなったのも上弦の鬼との戦闘の末だったのだから。