第34章 世界で一番大切な"師匠"※
瑠璃さんは翌日、宇髄さんが帰ってくる前に、朝方屋敷を出て行った。
宇髄さんは目敏い。
二人が口裏合わせをしているのも二回目ともなればバレる可能性も高くなるからと瑠璃さんが言ったから。
昨日はまだ初見だから騙せても、あまりに完璧な綻びのない嘘は逆に怪しいと思われるという発想の元だ。
久しぶりに瑠璃さんと一緒にいられて嬉しかった。
でも、此処からはまた一人で向き合わなければならないから気持ちが引き締まる。
どんどん増えていく隠し事や嘘。
それに対応するために身をすり減らしているのが分かる。
体調はいい。昨日泣いて瑠璃さんが話を聞いてくれたから精神的にもだいぶ落ち着いた。
ただ手持ちの切り札がどんどんなくなっていくような感覚。
次は乗り切れるか?大丈夫か?なんてビクビクしながら過ごす毎日に緊張感がいつもある。
瑠璃さんが朝早かったので、そのまま鍛錬をして体を拭くと部屋で隊服を着替えるため、それを脱いだ。
汗でくっついたそれが肌から取り除かれると解放感が気持ちいい。
新しい隊服に袖を通そうとした時、ドタドタとした足音が聴こえてきて勢いよく襖が開かれた。
「おい!ほの花!!」
そこにいたのは帰ってきたばかりの宇髄さん。
しかし、その場で固まってしまった彼に不思議に思いながら挨拶をする。
「あ、師匠、おかえりなさい!」
「っ!わ、悪ぃ!!」
悪ぃ?
悪ぃ…?
悪ぃ………!!!!
「え、あ、え、ひゃーーー!!」
私の悲鳴と同時にぴしゃりと閉められた襖だけど、その場で体を隠すようにして座ったところで時既に遅しな話だ。
いや、…見られたこと、何度もあるから…恥ずかしがるのも変な話なんだけど、着替えとそういう行為のときとはまたわけが違う。
しかも今は宇髄さんとそんな関係ではないのだから、やはり悲鳴を上げるのは正解だ。
もう自分の心が嘘で塗り固められた現状のせいで正常な判断ができなくなりつつあるのではないか。
真っ裸ではないにせよ、脚は投げ出されているし、胸もぽろんとまろび出ているし、男女の関係でない男性に見せるような姿ではない。
慌てて隊服を身につけると真っ赤に染まった顔のまま襖を開けると、同じく放心状態で顔を赤くしている宇髄さんと目が合った。