第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「あのね、ほの花。私はあんただから譲ったの。分かってる?あんただからよ。」
「……はい。」
「あんたのことが気に入ったから。天元にはあんたくらいぽけーっとしてる女のがいいわと思ったから。」
「う…はい。」
言葉にすれば、譲った昔の男を勝手に捨てたほの花に怒りはある。私がどれほど捨てることに勇気がいったか。
今すぐにでも天元に本当のことを言ってしまいたかったほど。
でも、私はもう部外者だ。
ほの花だって決死の覚悟で致し方なくそうしたのは分かっているから。
「腹が立ってるのは本当よ。でも、今更天元を返してと思わないのも本当。」
「はい…。」
「だからね…必ず生き残って天元に本当のことを言いなさいよ?じゃなければ許さない。一生恨んでやる。」
「ひっ…!わ、わかりました…!」
協力したのもほの花の悲痛な想いも伝わってきたし、此処を出る前に心配していたことが現実になってしまったから。
予感していたのに止められなかったから。
それに…私は基本的にはほの花が好きだ。
手のかかる妹みたいに思っているのは変わらない。
毒を盛ってしまって生死に関わるようなことをしてしまったのに庇ってくれた恩も忘れてない。
だからこれはその時の借りを返す意味もある。
でも、此処までだ。
その後はほの花が天元に借りを返すべき。
そこまでは絶対見届けたいからほの花にも天元にも生きていてもらわないといけない。
「…舞扇壊したら蛍が地獄の果てまで追いかけ回すって言ってたわよ。」
「ひぃっ…!!なんか…お二人似てませんか…?!」
「……そうかもね。あんたに対しては同じ考えを持ってるかもしれないわ。」
「お、同じ考え…とは?」
そんなの決まってる。
──天元と幸せになって欲しいということ
でも、そんなこと今のこの子に言っても傷つくだけだから。
仕方ないから言わないでおく。
私は寝たままほの花を見ると厳しい視線を向けてやった。
「手のかかる女だと思ってるってことでしょーが!!この馬鹿女!」
「ひ、っ、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
だけど本当の意味でほの花を救えるのは私じゃない。
それができるのは紛れもなく
天元ただ一人。