第34章 世界で一番大切な"師匠"※
ほの花は天元の記憶が戻らないことにだけ注視している。
もちろん今の状態的に天元もまた自分の記憶がないことに困惑しているし、それを取り戻したくて躍起になってるような気がした。
だけど、一度それが吹っ切れてしまえば…?
過去のことなんてもう関係ない、と。
ほの花を女として見ることを自分の中で容認してしまえば?
そうしたら天元は間違いなく再びほの花に接近する。
あの目は好きな女を見る目だ。
だけど今はそれに気付いていない。
気付いていないからこの関係が続けていられるのだ。
本当はこの二人は離れられるような関係じゃない。それを無理矢理薬を使って忘れさせてしまったからこんな面倒なことになっているのだ。
まぁ、ほの花が別れようと言ったらアイツのことだから監禁してでもどこにも行かせないようにするだろうけど。
それほど溺愛していた。
誰にも渡したくないと必死になっていた。
「…あんたって、面倒くさい性格よね。」
「え、ごめんなさい。」
「素直に甘える女のが可愛いわよ?」
「……なんとでも言ってください。」
ただそれは天元にも問題がある。
ほの花の心をちゃんと理解していなかったから悪い。
全てを知ってるこちらからすれば、これは大掛かりな痴話喧嘩のようにも感じるが、命に関わることらしいのだ。
そうでなければほの花は此処までしなかっただろう。
「…私が男ならあんたみたいな女はお断りだわ。」
「ええー、なんでそんなこと言うんですか。」
「面倒臭い女は嫌いなのよ。友達だからいいけど。」
「まぁ…私も自分とは恋人になりたくないですけど。」
どうやら其処は自覚があるらしい。
面倒臭いというのは思い通りにならないということ。
自分の恋人が素直に甘えてくれないなんて正直、絶望しかない。
「…あんた、手っ取り早く天元と結婚してた方がよかったわよ。」
「…何でですか?」
「そしたら逃げられないから。」
「宇髄さんからですか?」
「ううん。自分の本音から。」
ほの花が素直になれないのは本音を言うことを恐れているから。
天元の妻という立場になっていればそれが少しは自信になって、本音を言えるようになっていたかもしれないから。