第34章 世界で一番大切な"師匠"※
「俺は行く。まぁ、ゆっくりしていけ。」
「はいはーい。どうも。いってらっしゃい。」
「行ってらっしゃいませ!師匠!」
師匠と継子、そして師匠の元許嫁
随分と風変わりな組み合わせだが、そこにあるのは異様な緊張感だ。
それは私と瑠璃さんだけがお互いから感じ取るもの。
納得しきれていないという表情をしていたが、決して全く信じていないとも言えない様子の宇髄さんを見送るとその背中が見えなくなるまで手を振り続けた。
彼は耳が良い。
余計なことを言わないまま、瑠璃さんは私の手を取ると頷いた。
私もそれに応えるように頷いて玄関に向かっていった。
──ガラッ
引き戸の玄関を開けて、「ただいま戻りました」と無意味だと思うが目立たぬように声を出す。
できれば会わないことに越したことはないからだ。
しかし、玄関の音で気付いたのだろう。居間からぞろぞろと出てきた人たちは私の隣にいる人を見て固まっている。
「…あ、ただいま帰りました!」
そう言ってにこやかに笑ってみても視線は瑠璃さんに向けられたまま。
私のことは全く見えていないようにも感じる。
「どーも。一日泊まることにしたの。天元は了承済みよ。」
「…っ、な、何で…瑠璃さんが…?」
絞り出すように発した声は雛鶴さんだ。
後を追うようにまきをさんも須磨さんも口々にこの状況を問うような言葉を投げかける。
「ほの花さんに何かしたんですか?!」
「天元様は本当に知ってるんですかぁ?ほの花さん、こ、こっちに…!ほら!!」
外から見れば瑠璃さんがめちゃくちゃ嫌われているみたいに見えるだろう。
本当はもうこの人たちとも和解しているというのに申し訳なくて一瞬下を向いた私を励ますように背中を撫でてくれる瑠璃さん。
その顔は勝気でそれでいて美しかった。
彼女は気高い。
私とは大違いだ。
その姿に勇気をもらうと再び上を向き、彼女たちに向き合った。
「あの、実は私、瑠璃さんとお友達で…!だから師匠に頼んで今日一日だけ泊まってもいいか了承をもらったんです!」
瑠璃さんを悪者にしたくない。
せっかく協力してくれているのだから。
この人の協力なしには先ほど切り抜けられなかった。今度は私の番だ。