第34章 世界で一番大切な"師匠"※
口づけをしてしまった理由が知りたい。
そう思っていたけど、それ自体が衝動的な感情だったということか。
衝動的に口付けてしまったのか?
確かにほの花は美しい女だ。
でも、たったそれだけで女の唇を奪うようなことをしたことは一度もない。
それなのに俺はあの日、吸い寄せられるようにシた。
ごく自然に。
そこに何の疑問も持たなかった。
持ったのはしてしまった後だけ。
その前に何故考えなかったんだ。
"コイツは継子だ"と。
起きたばかりだったから寝ぼけていたのか?
「何よ、変な顔して。ねぇ、泊まっていい?一日だけよ。明日には帰るから。」
頭の中でいくつもの考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え…ぼーっとしてしまっていた俺は瑠璃の声で覚醒した。
「あー…まぁ、いいけど、よ。アイツらと喧嘩すんなよ。」
「分かってるわよ。この子の元護衛って人たちもいるんでしょ?」
「ああ。問題を起こさないと誓うならいても構わねぇよ。」
「なら決まりね。」
「わ、よかったです!瑠璃さん!」
自分のことのように喜ぶほの花を見ると、これが正解だったと思ってしまうが、浮かんだ疑問は消えることはない。
何故ならば俺の心にある違和感は消えることなく残ったままだからだ。
モヤモヤとしたそれは晴れるどころか日に日に大きくなるばかり。
「…ほの花、俺は警備に行く。アイツらにはお前から言っておけ。いいな?」
「あ、はい!師匠!行ってらっしゃいませ。お気をつけて。」
「ああ。お前もゆっくり休めよ。瑠璃、宿代はとらねぇけど、コイツに変なことしたら許さねぇからな。」
「は?ほの花にするわけないでしょ。友達なのよ。そこはあの三人の嫁でしょ。頭沸いてんの?」
…そうだ。
何故いま俺は真っ先にほの花が思い浮かんだのだ。
まるでほの花がコイツに傷付けられたことがあるような気がしてしまった。
「…別に、この場にいたからつい出ただけだ。もちろんアイツらにも手出すなよ。」
「しないわよ。失礼しちゃうわね。」
「師匠!大丈夫です!私が見張ってます!」
「はぁ?あんた私のこと信頼してないわけ?!」
「え、え!そんなことないですーー!ごめんなさいーー!」
見た限り姉妹のように仲のいい二人に、納得せざるを得なかった。
この二人の関係性を。